第69話

そのときバスが揺れて、こてん、森山旬の頭が私の肩に落ちる。



こんなに身長差あるってことは、肩の高さの差もあるはずなのに。よくつらくないなあ、なんて思ってる場合じゃなくて。



ふわふわの髪の毛から、純粋なシャンプーの香りがして、冷静な思考はストップさせられてしまう。



『惚れた?』



リップを塗っているみたいに赤いのに、男らしい薄い唇から紡がれた、扇情的な言葉を思い出してしまって。



あああ、もう。


私、どうしちゃったの。





数時間バスに揺られて、合宿所に到着した。



こてん、としたまま眠り続けていた森山旬は、合宿所に着くと何事もなかったかのように目を覚まして、殴りたい、と本気で思った。




「こっち、持って」


「え、いいよ、自分の持つよ」


「お前の腕折れそうで、見てるこっちが怖いから」




そう言って、私の荷物を頑として渡してくれなくて。



私は結局、手渡されたごくごく平均の大きさの森山旬のバッグを持ち、運転手さんにお礼を言ってバスを出る。




風に吹かれ、息をした瞬間に、海の気配と潮の香りで身体が満たされた気がした。

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