第69話
そのときバスが揺れて、こてん、森山旬の頭が私の肩に落ちる。
こんなに身長差あるってことは、肩の高さの差もあるはずなのに。よくつらくないなあ、なんて思ってる場合じゃなくて。
ふわふわの髪の毛から、純粋なシャンプーの香りがして、冷静な思考はストップさせられてしまう。
『惚れた?』
リップを塗っているみたいに赤いのに、男らしい薄い唇から紡がれた、扇情的な言葉を思い出してしまって。
あああ、もう。
私、どうしちゃったの。
◇
数時間バスに揺られて、合宿所に到着した。
こてん、としたまま眠り続けていた森山旬は、合宿所に着くと何事もなかったかのように目を覚まして、殴りたい、と本気で思った。
「こっち、持って」
「え、いいよ、自分の持つよ」
「お前の腕折れそうで、見てるこっちが怖いから」
そう言って、私の荷物を頑として渡してくれなくて。
私は結局、手渡されたごくごく平均の大きさの森山旬のバッグを持ち、運転手さんにお礼を言ってバスを出る。
風に吹かれ、息をした瞬間に、海の気配と潮の香りで身体が満たされた気がした。
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