第62話

「村岡」




後ろから聞き覚えのある声がした、のだけれど。



その声の主は、私のことを、名前はおろか名字ですら呼んでくれた記憶がない。



半信半疑で振り向くと、後ろにいたのはやっぱり森山で。



よりによって、隣に陸がいるこの状況で、何故話しかけてくるのか。




陸に、ペアが男の人だってこと、まだ伝えてない。



伝えたら、何かが変わってしまうような。何かが狂ってしまうような、そんな気がしたから。




「お前、荷物そのリュックだけなの?少なくね?」


「あ、ううん、私の荷物はこっち」




恐る恐る、陸が持ってくれている私のバッグを指さす。



ふたりとも身長高いなあ、って思ってたけど、こうやって並ぶと、本当に同じくらいかも。




バッグを指さすと、森山はようやく陸に気付いたような、わざとらしい表情で、どーもと一言だけ呟いた。




明らかに挑戦的な態度に、戸惑ったのは私だけみたい。


陸は、紳士的ににこり、森山に向かって笑顔を見せる。




「紗葉のクラスメイト?」


「まあ。あ、荷物俺持つんでいいですよ」


「え!?私持つんでいいですよ!?」

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