第57話

「だからキャリーバッグにしろってあれほど」


「だって、1泊なのに、ひとりだけ荷物大きかったらやだもん」

「まあ、確かに去年キャリーの人いなかったけど」


「ほらー!」




昔から、旅行のときの私の荷物が多いことを知っている陸は、呆れたように笑っている。




「今日は何もって来たんだよ」


「え?明日の着替えとか、勉強道具とか、色々…」


「その“色々”のせいだろ、重いの」


「むー」


「どうせ、お菓子とか大量に持ってきてんだろ」


「う…」




確かに、バスの中でおなか減ったらどうしようとか、みんなに配ろう、とか考えて、お菓子沢山持って来てるけど。




なんでもお見通しの陸に、「ふんっ」と口を尖らせて、ふて腐れていると、重くてどうしようもなかった荷物が、急に重力が逆になっちゃったみたいに、ふわっと持ち上がった。




「あれ?」


「あれ?じゃねーよ、なにこれよくこんなの持ってたな」




私のパンパンのバッグは、陸が担ぐように持っててくれていて。陸でさえも、重そうな表情を浮かべている。




「紗葉、こっちもって」


「あ!はい!」

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