第44話
「紗葉ちゃん…?」
雨音に隠されてしまうくらいにか細くて、でも澄んでいて、可憐な余韻を残す声。私はこの声に、聞き覚えがあった。
「隣、座っても、いいかな」
ふわり、雨のにおいの中で、控えめに香水がかおる。
「さっき、挨拶できなくてごめんなさい。私、宮原紫穂といいます。サッカー部のマネージャーをしてて、陸くんには、いつもお世話になってて」
美人なのに、どこまでも可愛い仕草。陸のタオルを、ぎゅっと握る彼女の長い髪はまだ濡れていて、ひとつ違いとは思えないほどに、艶っぽい。
「あの、宮原さん、」
「紫穂、って呼んでほしいな」
「紫穂先輩、何か…?」
雨音は、どこまでも大きく響く。
「ううん、特には、無いんだけどね。陸くんのこと、色々、聞きたく、て」
言葉を選んでいるのか、ゆっくりと話す紫穂先輩。
ちらり、顔を覗けば、メイクなんてしていても、雨で落ちているはずなのに、それでもピンクのチークをつけているみたいに、染まった頬。
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