第15話

「準備早いじゃん。歩いていける時間だな」


「うー、朝から疲れた…」


「でも、今日からまたこうやって朝練無い日は一緒に登校できるな」




陸のその一言が、私の心をふわりと浮上させる。


今日からまた、こうやって朝が苦手な私を陸が起こしに来てくれて、一緒に登校できる。


その事実だけで、大嫌いな朝が少しだけ好きになれそうな気がした。




「ほら、紗葉、口開けて」


「なに?」




無警戒で口を開ければ、甘いふわふわが口の中に押し込まれる。陸の指先が私のくちびるに小さく触れて、どきっとしてしまった。




「紗葉に食べさせて、ってさっきおばさんから蒸しパン持たされた」


「自分で食べられるよ」


「餌付けしてやるよ」




動揺を隠して言えば、陸は鳥にえさをあげているような気分なのか、その後も楽しそうに私の口に蒸しパンを小さくちぎっては押し込んでくる。



子ども扱いみたいでいやだけれど、陸が楽しそうだから仕方ない。惚れた者負けって、きっとこういうことなんだろう。

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