第11話

「りっく~ん!待った?ごめんね~」


「大丈夫ですよ、紗葉どんくさいですしね」


「そうなのよ、誰に似たんだか!」


「お母さんだと思います…」


「じゃあまず紗葉、ひとりで撮ってあげる」




私の心の声をスルーしたお母さんに促され、【桜森高等学校入学式】という厳かな看板がある正門の横に立つ。



「紗葉、もうちょい笑って」



にこにこと可愛らしい笑顔のお母さんの横で、当たり前のようにうちの一眼レフカメラを持ち、長い指でシャッターを切るのは陸。




昔から、当然のように私の写真を撮ってくれたのは陸だった。


こういう節目の写真も、何気ない日常のものも。


うちのアルバムのわたしの写真の撮影者は、ほとんど陸なんじゃないかってくらい。



「ほら、りっくん、並んで?」



それと同時に、私と並んだ写真が一番多いのも、陸だった。


家族より、誰より、陸との写真が多い気がする。



肩を寄せ合った私たち。


ちらり、横を見ると、もうそこに陸の顔はなくて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る