第90話
「飯食えてるか?」
「……あんまり」
声は普通に出るはずなのに、後ろめたさからか、聞き取れるかどうかの小さな波しか空気を震わせない。
「何日間くらい?」
「み、3日間…」
「あちゃー、そりゃ倒れるわ」
セルフレームの眼鏡をかけたミッチーが、がしがし、と頭を掻くのを申し訳ない気持ちで見つめた。
ふと視線を左側にずらすと、全く会話に混ざって来なかった律はなんと隣のベッドですやすやと眠っている。
ガチャリ、扉を勢い良く開けて室内に戻ってきた将司くんは片手にスマートフォンを握っていて。
「紫花ちゃん、入院ね」
「……はい?」
たった一言、それだけを決定事項のように清々しく言い放った。
「もう決まったから。習い事かなり詰めてたんだって? それ行かせないために。まあ軟禁みたいなもんだよ、病院に」
「な、軟禁…」
生まれてから初めて口にしたかもしれない慣れない単語に、無性に恐怖を感じる。
「自分の周りが心配性ばっかだって認識が甘かったな」
「うー…」
「瑛茗大附属病院の個室で取り敢えず1泊だってよ。付き添いを仰せつかりました、致路将司です。どうぞ宜しく」
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