第89話

「ごめん、永藤さんどうしたのか教えて」




養護教諭のミッチーではなく、将司くんがそんなことを聴くから違和感が満載で。



そしてその違和感を逃さないのが、薄情で鋭くて時々優しい私の親友。




「貧血みたいで、倒れちゃったんです。それより致路先生って紫花と知り合いなんですか? さっき名前呼びそうになりましたよね?」


「君、鋭いね…。ごめん、見逃して。紫花ちゃんは何も話してないと思うけど、多分もうすぐ全部分かるから覚悟しといてね」




だから今回は見逃して、という将司くんと麻耶の間の数秒間の沈黙のうちに取引はいつの間にか成立したらしい。




「ま、何があっても私は紫花の親友ですけどね」




将司くんに言うようで、きっとこれは私に向けられた言葉。花姫になれてもなれなくても麻耶には全てを伝えよう、とそう思えた。




「ありがと…。言えなくてごめんね。もう少しだけ待ってて」


「いいわよ、ようやく話してくれる気になったなら。あぁ、これ嫌味だからね」




そう言ってくれる麻耶に、苦笑が漏れる。もう少しだけ甘えさせてもらうことにする。もう少しだけ。




「永藤ー。ちゃんと眠れてるか?」




ベッドを離れて医務室の外に出て行く将司くんに視線を遣りながら、ミッチーの問い掛けに、正直に首を横に振る。

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