第88話

ワイシャツ越しに聴こえる、一定のリズムを刻む律の心音。




「ミッチー、どのベッドに寝かせればいい?」


「どれでもいいけど。取り敢えずクラスと名前言え」




養護教諭のミッチーのバリトンの声が聴こえた途端、叫びにも似た別の声が耳に届いた。




「え、しい、永藤さん!?」




その声を出した中等部の大人気教師に真っ先に反応したのは薄情な私の親友で、律を押しのけ前に出る。




「致路先生!どうして医務室に?」


「あーっと、突き指とか?かな」


「サボりだよ、サーボーり。俺と将司はここの同級生だから」




自分の体裁を守ろうと曖昧に誤魔化した将司くんを、ミッチーは非情にも切り捨てた。



そうなんですかー!と薄情な親友はそんなことにもオーバーリアクションだけれど。




「取り敢えずベッド借りるわ」




付き合ってられないと思ったのか、律はいちばん近くにあったベッドに私を寝かせてくれた。



横になったことで、大分身体が楽になった気がする。貧血特有の吐き気がすぅ、と引いて行く。

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