第86話

「そんなに顔色悪い? 一応隠してきたつもりなんだけど…」


「アンタの健康のバロメーターは顔色じゃなくて唇の色だから。透明なグロスじゃ誤魔化せてないよ。私が何年親友やってると思ってるの」




ぴん、と思いっきりデコピンされて、何かあった?と優しく聞いてくれる。



いつもより何処か優しい、労わるような声色に、鼻がツン、としたあとに目元に熱が滲んで涙が溢れそうになった。



ううん、何もないよ、と麻耶に伝えたいのに声が出ない。




そのまま世界は暗転した。




















“ーーーか!……いか!しいか!”




自分の名前が呼ばれていることを脳が認識して、働き出す。



重い重い瞼を持ち上げるように瞳を開くと、心配そうな表情の親友と律。




どうやら私は倒れたようで。


でも、身体の何処にも痛みを感じない。



教室にいたんだから、机に頭を打ち付けるくらいしていたっておかしくないのに。

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