第85話
◇
「樹理ちゃん、今日は何だったっけ?」
「ヴァイオリンレッスンとフラワーアレンジメントだけど。紫花ちゃん、あの――…」
「了解。じゃあ行ってきます」
コウくんが上海へと向かってから、今日で4日目の朝。月曜日の今日はなんだかいつもより身体が怠い。
何か言いたげな樹理ちゃんの言葉を遮って、秋色に染まってもいいはずなのに、根気強く夏色が留まる街を学校に向かって歩いて行く。
樹理ちゃんが言いたいことは分かってる。
きっと、無理をするな、って言おうとしているんだと思う。私が無闇に習い事をこの数日間に詰め込んでいるから。
「(だって、何かしていないと落ち着かないんだもん)」
不安で、だからこそ自分を高めることが出来ているという実感を味わいたい。
習い事で疲れている筈なのに、更けた夜のしん、とした雰囲気が重く私にのし掛かり、寝苦しくてなかなか寝付けないでいる。
そういうわけで、絶賛寝不足中の私の顔は花姫を目指しているのがおこがましいほどに酷い。
チークで顔色を誤魔化し、顔に棲みついたクマさんをコンシーラーで隠し、ビューラーで睫毛を上げて、無理矢理に瞼を持ち上げた。
怠い身体を引きずるように駅前の喧騒を通り抜け、黒塗りの送迎車の合間を縫って学校へ行き、螺旋状の階段を上って教室へと入る。
「おはよう、麻耶」
「アンタ体調悪いんじゃない?医務室行こ」
教室で私の顔を見た親友は、挨拶もそっちのけで私を医務室へ押しやろうとしている。
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