第83話
◇
まだ薄暗い景色が大きな窓の外から覗く。いつもより早い朝。
夏の名残がまだまだ残っているからか特に起きることに苦もなく、乱れたブランケットを剥ぎ取りベッドから下りた。
ルームシューズに足を通して、洗面台へと向かい顔を洗ってからパジャマのままにダイニングへと向かう。
「ん?早いじゃん」
もうすっかり準備が終わっているらしいコウくんは、細身のスーツを着こなして私と色違いのマグでいつものようにブラックコーヒーを飲んでいる。
「なに?見送りしてくれんの?」
私は白い木目の素敵なダイニングテーブルに両肘をつき、コウくんの顔を見つめた。
「…毎日、10分でもいいからテレビ電話してね」
「紫花こそ、変な時間に寝てテレビ電話のタイミング逃すなよ?」
「私だって瑛茗祭忙しくてお昼寝なんてできない。お土産も買ってきてね」
「…うん、あとは?」
「……それに、ちゃんと瑛茗祭までには帰ってきてくれる?」
私の我儘に、わかった、と優しく頷くコウくん。
「コウくんいないの、寂しいよ」
寂しいときは寂しいって言わなきゃ駄目、って小さいときからコウくんに言われてきた。
あと数時間で日本からいなくなっちゃうのが分かっているからこそ、素直に自分の気持ちを伝えることが出来る。
「よく言えました」
コウくんは喜びと慈愛を携えた表情で私を見つめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます