第83話



まだ薄暗い景色が大きな窓の外から覗く。いつもより早い朝。


夏の名残がまだまだ残っているからか特に起きることに苦もなく、乱れたブランケットを剥ぎ取りベッドから下りた。



ルームシューズに足を通して、洗面台へと向かい顔を洗ってからパジャマのままにダイニングへと向かう。




「ん?早いじゃん」




もうすっかり準備が終わっているらしいコウくんは、細身のスーツを着こなして私と色違いのマグでいつものようにブラックコーヒーを飲んでいる。




「なに?見送りしてくれんの?」




私は白い木目の素敵なダイニングテーブルに両肘をつき、コウくんの顔を見つめた。




「…毎日、10分でもいいからテレビ電話してね」


「紫花こそ、変な時間に寝てテレビ電話のタイミング逃すなよ?」


「私だって瑛茗祭忙しくてお昼寝なんてできない。お土産も買ってきてね」


「…うん、あとは?」


「……それに、ちゃんと瑛茗祭までには帰ってきてくれる?」




私の我儘に、わかった、と優しく頷くコウくん。




「コウくんいないの、寂しいよ」




寂しいときは寂しいって言わなきゃ駄目、って小さいときからコウくんに言われてきた。



あと数時間で日本からいなくなっちゃうのが分かっているからこそ、素直に自分の気持ちを伝えることが出来る。




「よく言えました」




コウくんは喜びと慈愛を携えた表情で私を見つめた。

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