第82話

「瑛茗祭の1日目に帰って来るよ。2日目だけだろ?一般公開」


「うん。長い出張だね」


「本当だよ。ま、一応桐谷だから仕方ない。その肩書きがあるからフラワーパーティーにも出席出来るわけだしな」




フラワーパーティーとは、花姫の戴冠式のこと。



学園関係者以外では、理事や選ばれた財政会の大物、代議士しか出席を許されない。



彼らは自分の後継者の妻として相応しい相手を、つまりこの世界では何よりも権威のある"花姫"の称号を持つ学生を狙ってやってくる。




投票権は彼らには無いが、それが逆にいいらしい。


学生たちに選ばれた、となればその学生たちが大人になって家を継いでからもずっと、花姫の威厳は保たれ続ける。自分たちが選んだわけだから。



だからこそ、彼らは花姫の称号を持つ花嫁を欲する訳で。




昨年の花姫は代議士の御令嬢だったこともあって、次期首相が確実視されている政治家の長男と婚約を結んだらしい。




「ちゃんと毎日テレビ電話するから。そんな寂しがんな。連れて行きたくなる」


「べ、つに!寂しがってないし。ね、シェリ?」




クスクス、とコウくんはからかったように私にそう告げる。私はソファーの下でいつの間にかのびのびと横になっているシェリに話しかけた。



ソファーから手を伸ばすとペロペロ、と舐めてくれる。暖かい感触に胸も温かくなった。

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