第81話
ようやく頬を解放してもらった私はソファーに横になったまま、L字型のソファの違うスペースに腰を下ろしたコウくんを見つめる。
リモコンでテレビをつけたけれど、夕方の中途半端な時間ということもあってニュース番組でも食レポばかり。
「瑛茗祭、あとちょっとだな」
「2週間切ったみたい、実感ないけど」
「準備は?順調?」
「明らかに衣装多めだけど、順調だよ。余ったやつどうするんだろう」
カタログでとりよせた衣装は、クラス35人に対して明らかに多すぎた。選ぶ選択肢があって嬉しいけれど。
選ぶ選択肢、といっても。友人たちがウキウキしつつ取り寄せていた衣装の中に果たして無難なものがあったのか、それが甚だ疑問だけれど。
「あ、俺明日から上海に出張だから」
「そうなの?何日?」
「上海は4日くらい。けど、その後パリなんだよ。上海から戻って来てすぐ出発するのも面倒だし、やりたいことあるからそのままフランス行ってくる」
普通は殆どあり得ないであろう、アジアの出張先からヨーロッパへのそのままの出張。
きっと上海は会社員としての"桐谷 光綺"の出張で、パリは桐谷の御曹司としての"桐谷 光綺"の出張なのだろう。
「瑛茗祭のために休みとったら親父に仕事詰め込まれた。親父もお前のために休みとったくせに」
会長ってずるいよな、とコウくんは笑うけど、明らかに長くなりそうな出張に私は気分を落とす。
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