第78話

インスタントでごめんね、と言いながら渡されたコーヒーを飲みつつ、ゆったりとした時間を過ごす。




私と将司くんの関係は、間にコウくんが入ってこそ成り立っていると思っていたから、ふたりで話しているこの空間に少しの違和感を感じて。




「植盛くんとは付き合ってないんだよな?」


「さっきそう言いました。もう!その話コウくんにはしないで下さいね!」




眉尻を下げ、懇願するかのように聞いてくる将司くんに笑いが込み上げる。




「光綺のこと好きなの?」


「好きですよ」




ぶっ、とコーヒーを吐き出す寸前の音を出して驚く将司くん。咄嗟に避けると少し悲しい顔をされた。ごめん。




「……え、恋愛的な意味で?」


「まさか。ていうかそっち的な意味で好きだったら一緒に住めないでしょ」


「そ、だよね、うんうん」




少し咽せながら相槌を打つ将司くんは、やっぱり大人っぽくて。



将司くんの人柄と、このゆったりとした雰囲気が私が誰にも話したことのない不安を零させた。




「私、《好き》って分かんないなあ」




恋愛的な《好き》が分からない。

恋愛的な《愛》が分からない。



私は家族だけが欲しくて。

家族からの無償の《愛》が欲しくて。




家族への拘りを捨てて、純粋に人のことを好きになることが出来るようになるのか。




不安を含んだ私の声は、コーヒーから上がる湯気にぼやけて、ゆったりした雰囲気に融けていった。

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