第74話

「まあ、座ってよ。"永藤さん"」


「ありがとうございます。"致路先生"」




ふたりでお互いの名字を強調して呼び合うと、笑い声が零れる。




「あー、慣れないな。久しぶり、紫花ちゃん」


「私は別に将司(まさし)くんのこと"致路先生"って呼ぶのも違和感ないですけどね」


「俺が気になるから将司って呼んでね」




致路 将司 (ちじ まさし)。


多分年齢は30歳で、瑛茗大附属中等部の数学教師。そしてコウくんの幼なじみでもある。




「光綺も今の紫花ちゃんぐらいのときから生意気になったんだよ」


「その発言、少しおじさんくさいです」


「気にしてんだから止めて」




コウくんとは4歳、私とは12歳差の将司くんは、やっぱり大人で眼鏡の奥の優しげな瞳が印象的。




「光綺は元気?やっぱまだ過保護なの?」


「元気ですよ。ときどき過保護です。海外行ってるときも多いですけどね。今度また遊びに行ってあげてください」


「その発言聞いたら光綺怒るよ。紫花ちゃんの家でもあるんだから、『遊びに来て』って言わなきゃ。あいつ、紫花ちゃんに遠慮されるのをいちばん嫌がってるし」


「うーん、頑張ります」




苦笑いすると、頑張れ、と将司くんは優しく笑った。

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