第73話

致路先生ばいばーい!という友人の声に愛想良く手を振り返す先生と連れ立って教室を出る。




「あれ?職員室そっちじゃないですよ」


「嘘だもん。数学科準備室行こ」


「え?嘘?」




中等部の教師だから高等部の職員室の場所を知らないのかとも思ったけど、よく考えればこの人もここの高等部に通っていたんだからそんなはずない。




4階にある数学科準備室に向かって階段を上がって行くと、人気の致路先生に視線が集まる。そもそも中等部の教師であるこの人はここではレアキャラだ。




がちゃ、と中等部の教師のくせに何の躊躇もなく数学科準備室の部屋に入っていく致路先生に付いてクーラーが効きすぎているくらいの室内に入る。




「先生ちわーっす」


「致路、どうしたお前。教師をクビになって高等部に入学し直すのか?」


「またまたー。俺数学だけは得意だったの知ってるくせに」




室内にいたのは、恐らく数学科でいちばん古株のおじいちゃん先生。どうやらふたりは高等部のときの教師と教え子の関係みたいだ。




「先生そろそろ緑茶タイムじゃないですか?」


「ああ、もうそんな時間か」


「俺今日かなりいい茶葉差し入れたんで、飲んできてくださいよ」


「たまには気が利くじゃないか」




おじいちゃん先生は嬉しそうに立ち上がり、ゆっくりと準備室を出て行った。

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