第70話

『栄誉ある今年の花姫の称号は誰が射止めるのだろうか。我々新聞部は有力な候補者にインタビューを試みた。


1人目は3-Dの永藤 紫花さん。誰もが彼女を知っているだろう。私たちの思い描く大和撫子のイメージと全く違わない容姿と、一般階級出身ながらも完璧に洗練された優美な仕種。音楽や書道などでも活躍されている。花姫の称号は彼女のためにあると言っても過言ではないはずだ。


そして彼女はいま、現代のシンデレラになろうとしている。


本紙が独占入手した情報によると、彼女はある男性よりプロポーズをされているそうなのだ。その相手とは、もうご存知だろう。彼女と共に紙面に載ることを快諾してくれた植盛 律くん(3-D)である。


植盛 律と言えば、彼女と同様この学園で彼のことを知らない人はいないだろう人物である。完璧な家柄と容姿を持つ彼と、花姫の有力候補である永藤さんが惹かれあったのは当然かもしれない。


実はこのインタビュー中に、我々は幸運にも植盛くんが永藤さんへ求婚する場面に遭遇した。


なんとその時彼女は断ったのだ。我々は驚愕した。何故なのかと。嫌だと拒否をした彼女には明らかに何かに憂いた表情が見えたからだ。


記事を書き発信する者として、自分の見解を公式に発表することは好ましくないが、どうか今回は許して欲しい。


恐らく彼女は家柄の違いから躊躇したのではないだろうか。胸に飛び込みたくとも、彼女にはしっかりとした後ろ盾がないのだ。


植盛くんは本紙のインタビューにこう答えてくれた。


「紫花はきっと俺に遠慮しています。そんな彼女を見ているのは正直辛いですね…。でも花姫になることで彼女が安心するなら俺は心から応援したいと思います。皆さんも是非紫花を応援してあげて下さい。」


結ばれるべきふたりが、この現代の世で生まれ持っての違いから引き裂かれるべきではないだろう。


花姫の称号はこのふたりの将来に大きく関わっている。文化祭のその後にはどうかふたりが自分の気持ちに素直に従い幸せになれるように、と心から願っている。


文:地居 豊(3-A) 写真:九重 裕(2-C)』

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