第66話
助手席から見える景色は光を纏い、更けた夜が弾けている。
片手でハンドルを握り、もう片方の手で煩わしそうにネクタイを緩めるコウくんからは色気がダダ漏れで、思わず息を呑んだ。
「なに?見惚れた?」
「………だ、って、コウくんが色気出してきたんじゃん」
私の僅かな息遣いの変化に気づいたらしくからかってきたコウくんに、つい本音を漏らした。
「お子様には早すぎたか」
ケラケラと笑うコウくんに、私は言い様のない不安を感じる。
「ねえコウくん、私早く大人になれるように頑張るから。だから、コウくんと一緒にいたいよ」
泣き声になっていないか心配になった。いつまでも子供のままだから、私はコウくんに認めてもらえない。
黙ってしまったコウくん。
今コウくんを見たら、きっと目の淵を熱く彩るものが零れてしまうから。
堪えるように、ようやく私に馴染んできた銀細工のブレスレットを付けた手首を、逆の手でぎゅ、と掴んだ。
――――…だから、知らない。
「残酷な奴」
そう呟いて嘲笑を浮かべたコウくんの瞳も、赤く彩られていたことを。
そして、その言葉の真意も。
ゆっくりと走る車の中、思わぬところでふたつの想いが交錯する。
ふたりは未だ、気づかない。
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