第65話

「では、タクシーを」




律も関係者としての立場に戻ったのか、しっかりとした口調で私たちを促す。




「(本当に、男の人って意味わかんない)」




どのタイミングで男同士の会話から自分の立場を尊重する雰囲気に戻ったのか。




「いえ、自分で運転してきたので」




暗にタクシーを断ったコウくんは、妙にプライベートを強調する。余所行きの笑顔は、やっぱり何処までも綺麗で怖かった。




「それでは」




エスコートという名の連行。


きっと周りから見たら、私がコウくんから凄い力で腰を引き寄せられていることは分からないだろう。隙の無いゆったりとした動作。




「紫花、明日覚悟しとけ?」




後ろから投げかけられた、『クラスメイトの植盛 律』からの言葉が死刑宣告のように身を震わせる。




「ああ、そうそう、」



コウくんの声がやけに通る。




「紫花は、誰のために綺麗になったんだろうな?」




後ろから舌打ちが聴こえたけれど振り向くことさえも許されず、私は律に弁明することも出来ないままにコウくんの車に乗り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る