第62話

「ご家族?」


「っと、いやうんそうかな」




コウくんを隠すように私は前に出る。身長差があるから全然隠れないけれど。



コウくんは主に私から発されているだろう必死な雰囲気を読んだのか、されるがままに律に顔を見せないようにしてくれている。




それでも、律は私とコウくんから視線を外さない。




「もう無理だろ、紫花」


「うー…」




コウくんは私の必死さが面白かったのか、このリッチな空間に似つかわしくない程に笑っていて。




「……あ!」


「どうも」




くるり、振り返ったコウくんは律に向かって何処か余所余所しい笑顔を浮かべる。




「………っは!? 桐谷、さん!?」




目玉が飛び出してしまいそうなくらいに驚いた表情の律は、ロビー全体に響くような声を出した。




「おい、」




一瞬律は動きを止めて、その後すぐに隣にいた付き添いの人に、偉い人を呼ぶように指示をする。




「いえ、結構です。今日は完全にプライベートなので」




今にも走り出しそうだった付き添いの人をコウくんは諌めるように止めた。

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