第54話

目を見張るほどに素晴らしい真っ白な毛を持つシェリは、基本的にどんな首輪でも映える。




「(冬っぽく革のやつにしようかな)」




まだ秋も来ていないのにそのあとやってくるはずの冬に思いを馳せ、首輪を選んだ。




冬が来る頃には、花姫になれたのか、なれなかったのか、それが明らかになっている。…そして、きっと、私の運命も。




ペットショップを出たところでポシェットのなかのスマートフォンを確認すると、そこにはコウくんからのメッセージが。




【いまから会社出る。この前買った洋画のDVD観たいから準備しといて】




10分ほど前に届いていたらしいそのメッセージ。都心部にある桐谷の総合商社から家までは車で20分ほど。



急がなきゃ間に合わないな。



ローヒールのサンダルが地面を鳴らすくらいの勢いで歩く。



周りから見た自分がなんだかとてもはしたなく見えるように思われて、少しスピードを緩めた。




高級住宅街の外れ。桐谷が戦前から持つ土地はかなり広大で長い塀を持つ。



いまこの住宅街にこの広さの土地を買うということになったら、想像出来ないほどのお金が必要だろう。




第二邸の門まであと半分ほど残った塀に沿って歩くと、閑静な住宅街には似つかわしくない女性の悲鳴と激しい犬の鳴き声。




威嚇するようなその吠え声がよく知るものだと脳が認識した私は、はしたないとは思いつつ門に向かって全力で走る。




自動で開閉されるはずの門が開いたままになっていて、何かが第二邸の敷地内で起こっていることが想像できた。

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