第50話

「ったく、今度こそ絶対お前のこと車に乗せてみせる」


「植盛の家の車に乗るなんて嫌よ。運転手さんも関係ない私のために働かされるの嫌でしょ」


「そっち側の女の子たちは車に乗せてあげると喜ぶけどな。お姫さまになったみたい、って。そういうところが紫花をこっち側に見せるんだよ」




さっき仮にも告白紛いのことをしてきたのにも関わらず、悪びれずにほかの女の子と私を比べる律。




「そういう軽いの、心底嫌い」


「紫花だけは特別」


「律の特別なんていらないから」


「それより、さっきの"植盛の家の車に乗るなんて嫌"っていう発言、忘れんなよ」




オレンジの光が、律の明るい髪色の間に紛れ込む。悪戯っぽい律の笑顔は、私にある種の恐怖を与える。




「なに、どういうこと?なんか怖いんだけど…」


「秘密」




律は、本当に何を仕出かすか分からない。普通の常識というか、私の考えを簡単に飛び越えるような行動をするから。




私に嫌な不安感を与える元凶の律から早く離れたくて。




「…じゃあね」




会話の流れとか、そういうものも全部無視。

私は律に背を向け、コウくんの待つ公園へと小走りで急ぐ。




やっぱり私に安寧をくれるのはコウくんで。

早く会いたいという気持ちが、どうしようもなく溢れた。

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