第45話

睨んでも、律は余裕の笑みを絶対に崩したりしない。きらり、光を含んだ瞳でじいっと私を見つめる。




カフェモカよりも甘いその瞳。インタビュアーとカメラマンのふたりも何だかこの雰囲気に呑まれているようで、一言も発しない。




だからこの男は嫌なんだ。



利用されるのは嫌いな癖に、容姿も家柄も、自分の持つ全てのものを上手く利用してくる。それは彼の自信へと直結していて。




「律はどうしてそんなに自分に自信が持てるの?」


「俺よりイイ男はいないから」




躊躇なくそう答えた律に、私は咄嗟に口を開いた。"律よりイイ男知ってるよ"って言おうとして。




「――――…ひとりだけ、どうやっても勝てない人がいるけどな」




ぽつり、律が言葉を溢す。本当に悔しそうな色を含んだ律の声を、私は初めて聞いた。




「誰?」




ただ、純粋な興味。絶対に本人には言ってやらないけれど、律よりもイイ男なんて私もコウくんしか知らないから。




イイ男の定義はとても曖昧だけど、きっと誰に聞いてもふたりはイイ男に分類されると思う。




「桐谷 光綺。名前くらいなら知ってるだろ?こっち側なら誰でも知ってる有名人」




思いがけず、律の口から出たその名前に私は驚きを隠せない。




「う、ん…、知ってる…」


「何笑ってんだよ」




寧ろ一緒に住んでます、なんて言えないし。それに、私と律の考えるイイ男が一致していたことがなんだか可笑しくて笑みが零れた。

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