第41話

「こっちの家柄考えてよ。庶民の血しか流れてないんだからね」


「そんなの花姫になってしまえば関係ないじゃない。花姫の称号は何にも劣らないもの」




きっぱりとした麻耶の口調。そうなんだけど。確かにそうなんだけど。花姫は、"こっち側"の世界では絶対的な意味を持つ。




「そんな簡単に言わないでよ。今まで花姫になるために何もしてこなかったんだから。花姫になるために努力してきた人には負けるよ」


「ああ、嶺岸 妃翠(みねぎし ひすい)?あの子は凄かったわね、1年生とは言わず中等部の頃から」




ね、と同意のつもりで頷くと、麻耶の視線が私の後ろへと移った。ぶつからない視線。不思議に思って後ろを振り向こうとすると。




「こんにちは、永藤さん」




特徴的な高い声。高くて、上品で、そして気の強さが滲む口調。そして黙る麻耶。



私は仕方なくパスタを巻く手をやめて、振り返った。




「こんにちは、嶺岸さん。どうしてこちらに?」




相変わらず、派手…いや、華やかに着飾っている。



茶色に染められた髪はばっちり巻かれていて、大きな髪飾りがとても目立っていた。



黒のアイライナーで縁取られている瞳、くるり、髪と同じようにカールしている無理矢理に長い睫毛。



色付けられた頬に、攻撃的なほどに紅い唇。




これを毎朝仕上げてくるのはとても大変だろうなあ、と昔から思っていた。



仕上げるというのは少し相応しくない表現かもしれないけれど、彼女の容姿はプロの作品のようにいつも変わらない。

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