第39話

こっち側と、あっち側。



この世界が当たり前の日常である律には、その区切りが当たり前のようで。




そういえば律は、所謂こっち側の女の子とは遊ばない。



"あっち側"で、植盛という名前ではなく、純粋に律に近づく女の子たちばかり。




こんなに軽そうなのに、"こっち側"での自分の影響力をちゃんと分かっている。植盛の看板は利用されやすく、そしてそれを自分が背負っていることを。




「律は、私を買い被りすぎてる。私は、"あっち側"の人間だよ」




私は、《桐谷》の血縁ではあるし、コウくんの好みそのままに育てられ、朝子さんにマナーはしっかり教えられた。



それでも、《桐谷》の苗字を貰えなかった人間だ。



そんな私が桐谷の血縁だとバレて、迷惑を掛ける訳にはいかない。




正直、律にはもう確信があるとは思う。律は曖昧な根拠では言葉を零したりしないから。誤魔化す意味がない、とも思う。でも認める訳にはいかない。




「ま、覚悟しといて」




頭の中でぐるぐると渦巻く語彙の中から次の言葉を選んでいると、律は軽そうな笑みを浮かべて私の頭を叩いた。




覚悟、ってなに。




でも、律にそれを聞く勇気はなくて。




花姫のこと、次の新聞記事のこと、そして律の言葉。




「ちょっと紫花!植盛とどうなってるのよ!」




大興奮の親友へ返事をするような余力もなく。

机に座り、今日も忘れずにつけた銀細工のブレスレット。

きらり輝くそれを眺めて、やっぱり思うのは。




「(コウくんに会いたいなあ)」

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