第38話
「ちょっと、律!どういうつもり?」
大きな声で言いたかったけれど、意識し始めた《花姫》という称号が、私に大声を出すのを憚らせた。
「んー?いいじゃん。このままマジで付き合っちゃう?」
ご機嫌そうに伸ばしてきた腕を、私は耐え切れずに叩き落とそうとして、――――掴んだ。
《花姫》は、いつでも優美であれ。
その言葉が頭に浮かんだから。
叩き落とされると思っていたのか、律は驚いた顔をする。
「律なんて、お断り。家柄も全く釣り合ってないしね」
「家柄なんて関係ないけど?紫花ならそんなの埋められるほどの魅力があるよ」
「冗談言わないで。もうこんなことはしないで」
「嫌だ。俺は紫花が欲しい」
聞こえてきた律の声は、いつもの軽い声ではなく、切なげな甘い声で。初めて聞く律の声に私は戸惑う。
「お前、何か隠してるだろ」
「え…、隠してることなんてない」
「分かるんだよ、生まれたときから俺はずっとこっち側だから。お前、自分は庶民だとか言ってるの嘘だろ」
確信めいた律の言葉に、身体の中心のリズムがどきり、不穏に変化する。心無しか、上擦った声が出た。
「嘘じゃないよ、だって永藤なんて苗字聞いたことないでしょ?」
「ないけど、お前は何か隠してる。分かるんだよ俺は。お前はこっち側だ、あっち側じゃない」
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