第37話

写真担当の学生の指でタブレットをフリックさせると、次々に写真が現れる。彼は、先程の写真できちんと撮れたものを私たちへと見せ始めた。




1枚目。微笑んだ律は優しく私を見つめながら背中に手を添え、教室へと促す。




2枚目。私を抱き締めつつ、額へと口付ける律。私の黒髪に入り込む律の手が写真を扇情的に煽り、咄嗟に目を閉じた私の顔はそのキスを受け入れているようで。




3枚目。律が私の耳へと唇を寄せて、何かを囁くシーン。目を見開き、驚く私の顔に隠れて、律の顔はニヤリ、微笑む口元しか写っていない。彼の赤い唇が私の肌色と対比して映えている。




4枚目。肩を抱かれた私と、並んで嘘臭い外向きの笑顔の律。身長の高い律を恨めしげに見上げる私の顔は、本当は怒りのために上気しているんだけど、まるで赤面しているようで。





うわぁ、と誰かが吐息を零す。溜息をつきたいのはこっちだ。


だって、




「どうみても、カップルだよねぇ」




よく知った親友の声が聞こえて、ギャラリーも同調するようにこそこそと話し始める。




「これは、次の新聞の一面に使わせて頂きますね。最高の写真をありがとうございました」




興奮したように高い声で話すレポーターと写真担当のふたりを、私はショックの余り何も言えずに佇んでいると。




「そうそう、その号は花姫特集号と題して有力者にインタビューするんです。永藤さんにも受けてもらわなければ困ります。それでは後日参りますので」




同い年のくせに最後まで堅い言葉遣いを崩さなかったレポーターは、気持ち良さそうに堂々とギャラリーの間を抜けて行く。



それに写真担当も続いて、そしてギャラリーたちも引いて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る