第35話

そんな重たい空気の中、私は、やめろと言って私の前に出てくれた律に、初めてと言っていいほど、猛烈に感動していた。――のに。




「そんな曖昧な写真じゃないほうがいいだろ?」


「…え」




私が耳から飛び込んできた律の言葉を理解しようとした一瞬の間。律の声は楽しげで笑みを含んでいる。




私の前にいた律は私の腕を引き、抵抗する間も無く律の隣へと私を引っ張った。




そしてそのまま、私を引き寄せ、そのまま額へ何処までも優しく唇を落とす。敏感になった額に律の熱い吐息がかかって。




「…っ、!律!」




その間、僅か数秒の世界。ありえない程の早業に、私も負けないくらい瞬時に律を突き飛ばしたけれど。




さすがに、そこは悪名もプロ意識も高い新聞部。逃しているはずはなくて。




そしてついでに、周りの悲鳴も凄い。その前の騒ぎで沢山の学生が集まっていたことを思い出して、背筋に一筋冷たい汗が流れた。




「さすが植盛くん!ありがとうございます」


「どう、見せて」




楽しげに写真を確認する律に、昨日の手首へのくちづけの時と同じか、それ以上の殺意が生まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る