第22話

駅前の騒がしさが嘘のように、地価が恐ろしいほど高い住宅街は閑静だ。ローファーの高めのヒールの音が響いてしまうくらいに。




桐谷の第二邸。大きな門の前に立つと、重厚な音を立てて門が開いた。




門を入ると、綺麗に切り揃えられた芝生が青々と広がり、大きな花壇には色とりどりの花が咲き誇る。その対比はまるでひとつの芸術作品のようで。




歩きやすいように、きちんと石が敷かれている道を急ぎつつ歩き、大きな白の扉を開ける。




「おかえりなさい、紫花ちゃん」


「ただいま、樹理ちゃん」




マンションにいるときよりも増えたお手伝いさんたち。引っ越してきた当初は、帰って来るたびに皆さんが挨拶に来てくれた。



その間をコウくんは平然と歩くけれど、私はどうしても苦手で。それをコウくんに伝えると笑って、じゃあやめようか、と言ってくれた。




樹理ちゃんは吉野さんの娘で、私より3つ年上の今年21歳になる女性。




ホテルマンを志す樹理ちゃんは、ハウスキーパーの修行だと言って、高校を卒業してから第二邸で働いてくれている。



朝子さんに認められたら、ホテルに就職するんだ!というのが彼女の口癖。




年が近いことや、吉野さんが昔連れてきていて面識があったこともあって、主に私の身の周りの環境を整えてくれている。




「樹理ちゃん、コウくんは?」


「光綺様はリビングルームにいらっしゃると思いますよ」


「ありがとう」




樹理ちゃんにお礼を言って、私は自室に向かわず、制服のままにリビングに向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る