第20話
◇
「紫花、何急いでるの?」
「早く帰りたくて」
授業が終わり、ホームルームが始まる前。私はがさごそと机を整理し、バッグに教科書を詰めていた。
忙しない私を、麻耶は不思議そうに見つめてくる。
「何かあるの?」
「いやただ食事するだけ」
「パーティーってこと?」
「私、そんなの出る家柄じゃないから」
私は、パーティーというものに出たことがない。学校で定期的に開かれるパーティーくらいならあるけれど。
コウくんのパパも出なくていいと言ってくれるし、それに甘えている。 それに、私は《桐谷》の苗字ではないから、色々面倒らしい。
《桐谷》ではない
というよりも、
《桐谷》にしてもらえない
のほうが正しいけれど。
――――…また思い出してしまった、あの日の出来事。
盗み聞きしてしまったという罪悪感と共に思い出す、絶望。
どうしてなの、コウくん。
『どうしてコウくんは、そんなに私に優しくするの?』
今日こそ聞きたいと、毎日思っている。この言葉をコウくんにぶつけてやりたい、そう毎日思っている。そんな勇気ないくせに。
コウくんの優しさと、今の幸せから逃げる勇気なんて、ないくせに。
いつも同じところに行き着く思考に苦笑した。まだ私の腕に馴染んでいないブレスレットが、きらり、光った。
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