第20話



「紫花、何急いでるの?」


「早く帰りたくて」




授業が終わり、ホームルームが始まる前。私はがさごそと机を整理し、バッグに教科書を詰めていた。



忙しない私を、麻耶は不思議そうに見つめてくる。




「何かあるの?」


「いやただ食事するだけ」


「パーティーってこと?」


「私、そんなの出る家柄じゃないから」




私は、パーティーというものに出たことがない。学校で定期的に開かれるパーティーくらいならあるけれど。



コウくんのパパも出なくていいと言ってくれるし、それに甘えている。 それに、私は《桐谷》の苗字ではないから、色々面倒らしい。





《桐谷》ではない

というよりも、

《桐谷》にしてもらえない

のほうが正しいけれど。





――――…また思い出してしまった、あの日の出来事。


盗み聞きしてしまったという罪悪感と共に思い出す、絶望。




どうしてなの、コウくん。




『どうしてコウくんは、そんなに私に優しくするの?』




今日こそ聞きたいと、毎日思っている。この言葉をコウくんにぶつけてやりたい、そう毎日思っている。そんな勇気ないくせに。



コウくんの優しさと、今の幸せから逃げる勇気なんて、ないくせに。




いつも同じところに行き着く思考に苦笑した。まだ私の腕に馴染んでいないブレスレットが、きらり、光った。

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