王子様は私を自分色に染めた

第15話




「紫花、なんだか嬉しそうね」


「そう?」


「あなたが表情に出ちゃうくらい嬉しいことってなによ」


「うーん?」




一緒に並んで歩きながら、麻耶は興味津々という感じで私の顔を覗き込んでくる。




そんなに私、嬉しそうな顔してたのかな。


理由なんて、そんなの、コウくんが帰ってきたからに決まってる。




麻耶は初等部からの親友だけれど、でもコウくんのことは言っていない。私も永藤という名字のままだから、気づかれることもない。




隠している理由は、コウくんがあまりにも人気だからだ。




日本有数の大企業。外資に乗っ取られることもなく、未だに経営権を持つ創業家の御曹司。



そして、あの容姿。物語から出てきた王子様のような、この世に並び立つもののない神々しさ。仕草は繊細かつ優美で、育ちのよさが滲み出ている。




それでも、フランクに周りの人に接していたコウくんは、8歳年下の私たちの代でも噂になるほどに人気だった。



コウくんが高等部のころには、コウくんを見るために初等部から高等部のカフェテリアに忍び込む人もいたりして。



そういうわけで、私は平穏な学生生活を送るために、コウくんと住んでいることは秘密にしているのだ。





螺旋を描く階段をふたりで上がっていき、教室に入ると18歳という年相応の騒がしさ。



3年生ではあるけれど、多くの人たちはこのまま内部推薦で進学するし、もし他校を志望しているとしても余るほどの指定校推薦もある。つまり、ピリピリする必要がない。

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