第14話

それは却下、と光綺さんが小さく呟く。私がもふもふから視線を外し、光綺さんを見上げると、王子様のようなキラキラとした微笑みを携えて。




「俺、この犬よりも紫花のそばにいるつもりだから駄目。 こいつのことコウって呼ぶなら俺のことそう呼んでよ」



「コウ…くん?」




私がそう呼んだ瞬間に、嬉しそうにうん、と呟いたコウくんは、ゆるりと私の髪を撫でた。





「シェリ!!!」




青々とした芝との対比が素晴らしい、相変わらず真っ白の毛を身につけて、私の投げたボールを咥えて戻ってくるもふもふの犬。シェリ。




桐谷の家に引き取られてから8年。私は、コウくんが通っていた高校の3年生になった。コウくんが私を引き取ってくれたのと、同じ年齢。




――――…俺、この犬よりも紫花のそばにいるつもりだから駄目。




第二邸に引っ越したあの日に、車の中で言われたその言葉。


気休めではなく、現実にしてしまったところも、本当に王子様みたいだ。




高校3年生という大切な時期だったのに、内部推薦で早々と合格が決まったコウくんは、本当に私のために時間を割いてくれた。




大学生になっても極力早く帰ってきてくれたし、飲み会などでどんなに遅い時間になっても絶対に家に帰ってきて、一緒に朝食を取ってくれた。




そして、桐谷が経営している総合商社に就職。 海外出張も多いけれど、海外にいるときはテレビ電話をしてくれるし、お土産も沢山買って来てくれる。




麻耶という親友も出来て、シェリや朝子さん、吉野さんたちがいて、そしてコウくんがいる。



おばあちゃんやおじいちゃん、お父さんお母さんのお墓参りにもコウくんはこまめに連れて行ってくれる。




――――…もう本当、怖いくらいの幸せで、押しつぶされそう。

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