第10話

そして私は、永藤 紫花(ながふじ しいか)のままで桐谷の家に引き取られることになった。



難しい手続きは、全て桐谷家の顧問弁護士のおじいさんがやってくれたみたい。




本邸ではなく、コウくんに与えられている、お手伝いさんの朝子さんたちがいる高層マンションの一室。そこに私も一緒に住むことになった。ここは本邸からそこまで距離がある訳ではない。




「紫花、外で遊ぶの好き?」


「はい、好きです」


「動物、好き?」


「大好きです」


「ふーん。わかった」




私を抱きしめてくれた王子様は、私より8歳年上の18歳で、マンションから吉野さんの車で有名私立大の付属高校に通っている。私も、そこの初等部に転入することになっていた。




私がそのマンションの一室に引っ越してすぐ。荷物も整理し終わらない内に引越しをすることになって。




「え?引越しですか?」


「第二邸に移ることにしたんだ。誰も住んでないのは勿体無いし。庭もあるし、犬でも飼って楽しく暮らそうな」




学校にも近いから早く引っ越そう、とすぐにマンションを引き払った。




子供ながらに、この人には何かある、と思っていた。伏せた瞳には時折闇が覗く。何か理由があったからこそ、第二邸には住んでいなかったのだろう。




それなのに、私の我が儘を聞いてくれて、それを踏まえて第二邸に引っ越すことを決めてくれた。



お母さんもお父さんも、おじいちゃんも、そしておばあちゃんも。皆いなくなってしまったけれど、光綺さんや朝子さんや吉野さんがそばにいてくれた。

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