第9話

そんな優しい言葉と、おばあちゃんにも似た温かな体温に誘われて。止まらない涙の雨を、王子様の肩に押し付けて、そうすると声までも出てくる。




「おばあちゃん…っ、いなくなっちゃやだ…っ」




今度は口元も黒い服に押し付けると、くぐもった声が零れた。




「俺も昔はトキにこうやってもらったんだ。あいつおばあさんになっても怪力だったからな」




私の顔の位置が高いからか、耳に直接流れ込むような王子様の声がくすぐったくて顔を捩る。




永藤 吐季。おばあちゃんをトキと呼ぶこの人は誰?



そう不思議に思っていると、王子様のお父様…王様?の顔が見えるようにと、私は王子様に横抱きに、所謂お姫様抱っこをされた。




「紫花ちゃん、私もよく小さいころはトキに抱きしめられていたんだよ」


「おばあちゃんに…?」


「トキは怖くてね、いけないことをするととても怒られた。それでもそれ以上に優しくてね」




そこで気づいた。この人たちは、おばあちゃんがお手伝いさんとして仕えていた、桐谷家の人たちだってことに。




「紫花ちゃん、私たちと暮らそう」


「え?」


「私はトキに恩返しをしたいんだ。本当に。光綺もそう思ってるよ」




な?と問いかけられた王子様は、優しげな表情を浮かべたままに小さく頷いた。

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