第5話
コウくんが何も変わらない、と言った窓の外の風景をもう一度見てみる。
綺麗に手入れされた木々や花。有名なデザイナーのデザインであるブレザーのスカートが夏風に揺れて、黒塗りの車が何台も連なって。
私にとっては現在進行形のいつもの風景なのに、コウくんの話を聞いた後だと、タイムスリップをしてこの景色のままのコウくんの高校時代まで来たように感じられた。
こんな高級車で、しかもあの桐谷光綺に送ってもらって来たのがバレたら間違いなく大騒ぎになる事が分かっているから、車の列から逸れて、私はその近くの公園で降ろしてもらうことにして。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「コウくん、今日の夜は一緒に食事出来るの?」
「出来るよ。だから早く帰って来いよ」
「はあい」
ぶわ、と夏の不快なコンクリートから照り返されて、あり得ないほど熱気を含んだ空気に包まれているのに、自分でも分かるくらいに口角が上がる。
そんな私にコウくんは優しく微笑み、そっとあの大きな家の方向へと車を発進させた。それを見届けてから、私はいつものように車と車の隙間を縫って、校門をくぐる。
「紫花、おはよう」
「ああ麻耶!吃驚した、おはよう」
私の乗ってきた車の数台後の車から降りてきたらしい、親友の麻耶。私が初等部に転入したときからいちばん親しい友人。
この学校は初等部から大学部までエスカレーター式の有名私立で、教育もしっかりしている上、周りに高級な住宅街があるという立地的のお陰で、経済的にかなり裕福な人が多い。
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