第65話
「っ、」
何か、言おう。言わなきゃ。
そう思っても、何を言えばいいのかまったく分からない。
――そんなことないよ、呉月くんは素敵だよって?
――もっといい人、見つかるよって?
――そんな風に呉月くんのことわかってない人止めなよって?
――私が、いるよって?
どれも、当てはまらないような気がして。
頭のなかで浮かんだ言葉は、音となり、空気を震わせることなく、また飲み込まれる。
呉月くんは、机に落としたままだった視線を、そっと私のほうに向けた。
憂いを帯びた瞳が、あの人ではなく、私に向けられる。それだけで、ウルサクなる心臓。
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