第10話

「…さすが、エース。」



「だからエースって何。」



「何でもないです。何の話してたんだっけ?」



「……、橋本さんの親は和歌が好きなのかって話。」





色気にあてられないように、視線を少し落とす。



落とした先には、机が。



アンケート用紙が散乱したそこの隙間から、古文の時間に書いたうさぎの落書き。



それが、馬鹿みたいに緊張している私を笑っているように見えて。




…こいつめ、消してやる。



ごしごしとその落書きを消しゴムで消して、うさぎからの恨みがましい視線から解放されてから、エースの質問に答える。





「そうなの。お母さんが小野小町の和歌が凄く好きで。もうおばさんなのに。まだお父さんともかなり仲良しだし。」



「どんなに技巧が優れた和歌にも好みはあるし、年齢は関係ないんじゃん?自分自身の感性の問題だと思う。おれは新古今和歌集の歌みたいな華やかで技巧を競っているような和歌よりも、万葉集のストレートな和歌のほうが好きだし。」

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