第9話

「橋本小町でしょ?フルネーム。小町とか、やっぱりいちばん最初に連想したのが小野小町だったからさ。」




その言葉を聞いた途端に、驚く気持ちと、同時に嬉しさという複雑な感情が芽生える。苗字だけではなく、名前まで。"橋本 小町"という私のアイデンティティを確立してくれるものを覚えていてくれたことに。




表情にも出てしまっていたみたい。





「俺だって、クラスメイトの名前くらいは覚えるよ。」





表情から私の気持ちを読んだように、椅子に座ったままの呉月くんに苦笑される。





「う、わ!ごめん!そんなに顔に出てた?」



「うん、滲み出てた。しかも今の発言で認めたことになるしね。そう思ってたこと。」



「ごめん…!」





やらかした。



この教室で2人きり、ってこと意識しないつもりだったけど、そんなこと出来ない。




余りにも綺麗な顔は、苦笑をしていても色気が溢れ出てる。




ぶわっぶわ。包み込むように優しいかのように思わせておいて、近づけば突き刺すように鋭い。

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