再生

虚空を吸い込んだ雨雲が

鬱屈をすべて吐き出す夕刻

水に沈んでいく田んぼの中で

破片が寄り添いうごめいて

一つの生物が生まれていた

大きな翼をゆっくりと揺らして

その生物は水中を進んだ

目の前は濁った舞台で

好みだけで方向を決めて

まさに自由

彼女は生命を実現させていた


水流は用水路を越え

大きな河川へと向かっていた

生きているものも生きていないものも

暴れながら転がっていく

けれども彼女はまっすぐ進んだ

摂理への従い方を知らなかったから

喜びや悲しみも流される中で

彼女には希望しかなかった


川は町をも飲みこんで海へと走る

少し苦しさを感じた彼女は

息を大きく吸い始めた


塩分が首筋を錆びさせていく

久しぶりだね、と誰かが声をかけてきた

何十年ぶりかにあなたを見ましたよ

彼女は少し首を振った

いいえ、私は今日生まれたの

気泡が視界を埋める

そのまま彼女は波にさらわれ

遠く遠くへ連れ去られていった

意識が薄くなっていく中

海が優しく微笑んでいた

ああ 私は いつか生まれていて

きっと いつか また 生まれるのだ


彼女は信じた

そして名もなき生物は溶けた

翼の記憶を少しだけ残して

再生までの眠りについたのだ

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