携帯電話

携帯電話が大きくなり始めた

突然の成長期に戸惑ったが

見守るしかなかった

そのうち猫より大きくなって

携帯できなくなった


携帯電話は時折転がって

自ら充電器に突き刺さる

大きくなった分電気も食う

全くメールが来ない日も

冷蔵庫並に電気を使う

そのうち足が生えてきて

自ら歩き始めた

そして手が生えてきて

自ら操作し始めた

私はただ見守るしかなかった


大きくなり過ぎた携帯電話は

私の家に収まらなくなった

ショップに運んでみたが手遅れだった

仕方なく動物園に頼んでみたが

餌では育たないので断られた

もういいんですよ、と携帯電話が喋った

びっくりして見つめていると

彼は自ら電源ボタンを押した

がくんと膝を付き

ゆっくりと縮んでいく携帯電話

私は心を静かにして

そっと♯ボタンを撫でていた


四日後携帯電話は元よりも小さくなっていた

電源ボタンを押しても反応しない

私はそれをポケットに入れて

思いつくままに歩いた

ただただそうしたかったのだ

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