スーツ

スーツが独り立ちしてしまった

取り残された僕は途方に暮れて

とりあえずジャージを羽織った

世界はほとんど変わらずに見える

スーツの残した手紙は

僕の知らない言葉だった

追うべきか


外に出るとワンピースが歩いていた

「スーツを観ませんでしたか」

「たくさん見たけれど区別がつかないわ」

首元がひらひらと揺れる

あなたはどこへ行くんですか

私たちは一年で流行遅れなの

ワンピースはどこかへ行ってしまった


僕は大事なことに気が付いてしまった

心を家に忘れてきたのだ

体だけがさまよい続けて

命だけが世界を傷つけている

包む物はつまらない夜に向けて

風を閉ざして濡れている


家に帰ると洗濯機がくつろいでいた

「もう何も洗うものはないよ」

服が全てなくなっていた

最初からそんなものがあったのか

それももうわからない


眠りについた心を起こして

僕は冷蔵庫に入った

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