第15話 マーガレットのお願い
翌日、ブロッサムは学校で結界の練習をしていた。
なぜかソフィアが一緒にいる。
というか、呼び出された。
「一緒に結界の練習をしますわよ!!
練習場の予約は済ませてありますわ!!」
その言葉に驚いて来てみれば、聖女服のソフィアが待ち構えていた。
それにもう一人、茶色の髪の聖女がいた。
おっとりとした雰囲気の美女で、ブロッサムは彼女に見覚えがあった。
「マーガレット様!?」
「ブロッサム、久しぶりね。」
もともと際立って美しかったマーガレットだが、嬉しそうに歩み寄るその姿は以前よりさらに輝いていた。
「治癒結界を使えるようになったんですってね。
おめでとう。」
「ありがとうございます。」
「わたくしがAランクになるまで頑張れたのはね、あなたに勇気づけられたからなのよ。
浄化結界が使えなくて落ちこぼれと呼ばれても、あなたは頑張っていた。
わたくしが教えると熱心に聞いていたわよね。
それを見ていたら諦めちゃいけない気がして……」
(身分も学年も上の方が勉強を教えてくれるのを、断れる鋼メンタルを持ち合わせていなかっただけですー!!)
マーガレットは、ブロッサムをずいぶん買いかぶっているようだ。
「実はね、わたくしの婚約者の伯母にあたる方があなたに会いたいと言っているの。」
「ご婚約者の伯母様が?」
(マーガレット様の婚約者って王族だよね、じゃあ伯母様も……)
「今度の治癒、伯母様に見学させてもらえないかしら?」
「ええ?
お医者様や教会の司祭様に訊かないと……」
「先ずはブロッサムに訊きたかったの。
ブロッサムが嫌なら諦めるわ。
そう伯母様にも申し上げているの。」
「わ、わたくしは構いませんけれども……」
(逆に断った後が怖い……)
この国の王族は世界でも特別な存在だ。
始まりの大聖女の子孫で神聖視されている。
彼らの機嫌を損ねたらどうなるか……
「良かった!
じゃあお医者様と司祭様にはこちらから連絡しておくわね!」
マーガレットはブロッサムの手を握ってニッコリ笑うと去っていった。
「もちろん、あたくしも見学させてもらいますわ!
ブロッサム様はシャイな所がありますから、サポートが必要でしょう?」
(シャイ?
そう思われるような事したかしら……?)
ブロッサムの疑問をよそにソフィアは、張り切っていた。
「さあ、練習をいたしましょう。
先ずは、あたくしがお手本を見せましてよ!」
ソフィアが祈ると彼女の全身が眩しく光り輝いた。
やがて光は粒となり彼女を離れ広がってゆく。
密度を上げ、壁を形成し拡大し続ける。
光の壁は学校の敷地をでても止まらない。
「うわっ!?」
学校近くのパン屋で、突如通過していった光に客が驚いて声をあげた。
「お客さん、都の人じゃないね。
最近来なすったのかい。」
パン屋の店主が笑って訊いた。
「都どころか隣の国から来た。
なんだいあれは?」
「もしかして西の隣国かい?
あちらは聖女が少ないんだってね。
今のは、見習い聖女様が結界の練習をしたんだよ。
この街じゃよくある事さ。
あれが通るとパンが
「はぁ~、さすが神聖王国。
俺の国じゃ聖女や聖騎士は生まれてすぐに城に連れて行かれて、任地への移動以外出てこないから見たことないよ。
任地でも貴族の屋敷から出てこない。」
「城に連れて行かれる?なんだそりゃ。」
「聖女や聖騎士が生まれると、城から兵士が来てその子を連れて行ってしまうのさ。
その後は成人するまで城で暮らすんだ。」
「まさか聖女様や聖騎士様は、お
「そうだ。親は金が貰えるが、そこで親子の縁は切れる。」
そこで客の男は、声のボリュームを下げる。
「中にはそれが嫌で、女神の祝福があっても隠す奴らも居るとよ。」
(なんだそれ、神聖力があっても生まれた時はただの赤ん坊だぞ。
それを親から引き離す?
城や屋敷から出てこない?
そんな事して女神様は怒らないのか?
彼らは女神の愛し子だぞ。)
実は、この近所にも聖騎士が生まれた家がある。
他の兄弟は普通の人間だが、仲良く暮らしている。
店主は内心の嫌悪を隠し笑顔でパンを売った。
客の背を見送りながら店主は考える。
この国じゃ、どんなに小さな村にも聖女と聖騎士が居る。
そうなるように教会が派遣する。
隣国の事はよく知らないが、小さな村に貴族の屋敷があるだろうか?
城や屋敷から出ないなら、結界は城や屋敷中心に展開してるのか?
聖騎士は城や屋敷だけをを守っているのか?
(平民のことは守っていない?
まさか、西の隣国に聖女、聖騎士が少ないのはそれが原因なんじゃ……)
店主は嫌な気持ちを消したくて、壁に飾ってある大聖女クラリスの写真に祈った。
ソフィアは自分の結界の出来に満足げに微笑むと、ブロッサムの方を見た。
「次はブロッサム様の番ですわよ。」
ソフィアの結界に見惚れていたブロッサムは一つ深呼吸をして、気持ちをリセットする。
「いきますわ。」
ブロッサムが祈ると治癒結界が展開する。
シャボン玉のような虹色の球が広がってゆく。
「まあ、美しいわ……!」
ソフィアが目を輝かせる。
「直径三十メートル。前回の倍ですね。」
練習場を管理している教師が計測結果を教えてくれた。
思っていたより良い結果にホッとしていると、ソフィアが元気良く言った。
「これで次の治癒もバッチリですわ!
やはり、あたくしという優秀な友人が居ると違いますわね。
オーホッホッホ!!」
(高笑い!?
なんでわたくしよりも自慢げなのかしら……?)
首を傾げるブロッサムであった。
(でも、見ていて楽しいからいいですわ。)
そう思い直して、ブロッサムも笑った。
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