第11話 ミレニアムの両親

 結界はすぐに消えたが、本人も含めて五人も見たのだ。見間違いなどではあり得なかった。

 医者がミレニアムの側に来た。


「家族から女神の祝福について聞いたことはあるかい?」


「聖女様や聖騎士様が生まれた時の光でしょう?

学校では習ったけど……」


 何も言われた事はないとミレニアムは言う。

 夕食の支度をしないといけないと言うミレニアムを病院のスタッフが送って行った。

 祖母や家の様子を見る意味もあると医者はブロッサムに語った。


「家族はミレニアムが聖女だと知ってるんでしょうか?」


 ブロッサムは医者に訊いてみた。


「平民生まれだと祝福の光も弱いし、気づかない人も稀に居るそうだが……

母親に訊いてみないとなんとも。」


「じゃあ詳しい事が分かるのは来週ですか……」


「こちらが病院で、ミレニアムについての話と言ったら、親方に詳しくと言われてね。

両親にしか話せないって言ったら『なるべく早く行かせる』だそうだ。」 


 これ以上は何もできなさそうだと判断してブロッサムは帰宅した。


 数日後、医者から連絡があった。

 ミレニアムの両親が病院に来るから会ってみるか?とのこと。

 もう日が暮れる時間だったが、気になったので行ってみる事にした。

 アクア、カイ、ポチも一緒だ。


「娘を助けてくれてありがとうございました!!」


 ミレニアムの両親はブロッサムを見るなり九十度のお辞儀をした。

 

「た、たまたまお嬢さんを見つけただけなので気にしないで下さい。」


「お優しい姫様で良かった。」


 姫様という言い方にむずがゆいものを感じながらブロッサムは微笑んだ。貴族の娘なのだから姫で間違いは無い。

 ミレニアムはどちらかというと、父親似のようだ。オレンジの髪と目がそっくりだ。

 母親は黒髪だが、凛とした雰囲気は娘に似ていた。


「ところでお嬢さんについて、いくつか気になる事があるのですが……」


 医者が話を切り出す。


「なんでしょうか?」


「ミレニアムさんは、身長の割に体重が軽いんです。

後、目の下のクマも気になりますね。

こちらのブロッサム嬢が治癒を施して薄くなりましたが、食事と睡眠が足りていないんじゃないかと思いまして。

こちらに来た日も、朝食を食べていないと言っていましたし……」


「朝食を?」


 父親はポカンとし、母親は顔を強張らせる。


「お祖母ばあ様とケンカして抜きにされた。と言っていました。」


「え?ミレニアムは何をして母を怒らせたんでしょうか?」


「新しい服を欲しがったようですよ。従姉妹のお下がりでは小さいからと、贅沢だと怒られたそうですが。確かにあの日着ていた物は小さく見えましたね。

体重に関しては太らない体質の子もいるから一概には言えませんが、私は彼女の通う学校に健康診断に行ってましてね。

その時も少し気になりまして……

ひどく眠そうだったんですよ。」


「眠そうって、娘は夜更かしでもしているんでしょうか?」 


「さぁ?家での様子を見ていないので、私には分かりかねます。

担任の先生に聞いた所、遅刻はないそうです。むしろ朝早く学校に来るようになったとか。

放課後は遅くまで残っているようですね。

後は宿題を学校でするようになった、給食をよく食べるようになった。

これらの変化は半年前から見られるようになったそうです。

何を意味するのでしょう?」


「まさか、いや、ミリーは女の子だ、僕とは違う……」


「……何か心当たりが?」


「いえ、はっきりした事は無いのですが……」


「半年前は、私達が家を離れた頃です。」


 母親が口を挟む。父親は心当たりがありそうだが、信じたくない様子。


「先日娘さんが言っていた事を書いておきました。確かめてみては?」


 医者から紙を渡された両親、とりわけ母親の顔色が変わった。


「……今は夕飯時ね。ゲイル、行くわよ。」


「ヴァネッサ?」


「確かめましょう、お義母さまがちゃんとミリーの世話をしているか。先ずはこれから。」


 紙に書かれた一文を指差し、母親は言った。

 すぐにでも飛んで行きそうな二人に医者は言う。


「確かめたらまた来て下さい。もう一つ大事な話があります。」


「もう一つ?何ですか?」


「そちらがはっきりしてからの方が良いと思います。必ずまた来て下さいね。」






 

 



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