第9話 ミレニアム
「うーん、貧血かなぁ。とりあえず休ませてみよう。」
ブロッサム達は少女を医者に見せたが、外傷はないので病室で休ませて様子をみることになった。
少女の事は看護師に任せて、ブロッサム達は治癒を行う部屋へ向かった。
「前より大きな部屋ですね。」
「希望者が多くてね。今日は前回の倍の人数なんだ。
前回と同じ、神聖力が使えなくなったGランクの人だよ。
ブロッサムの負担を考えて一度で終わるように広い部屋を用意した。」
確かに患者と思われる男女が十六人、それと前より多い看護師と医者も数名。
だが、下の階には他の看護師や事務員がひしめいていた。
前回、偶然治癒された者が目に見えて若返っていたからである。
最高の全身エステを受けた後みたいだ、とは美容オタクの女性患者談。
皆ワクワクしながら、その時を待っていた。
「それじゃ皆さん、彼女の周りに集まって。」
医者が声をかけるとぞろぞろと集まってくる。
「行きます。」
ブロッサムが静かに女神へと祈りを捧げる。
すると虹色の球が現れた。
ブロッサムの体をギリギリ包む大きさから徐々に大きくなり直径十メートルまで達した。
医者が呟く。
「また、大きくなってる。」
ブロッサムがいる部屋と廊下、一つ下の階の部屋、そして一つ上の階の部屋まで。
上の部屋には、屋根の修理中に転落し骨折した男がいた。
男はあまり裕福ではなく、妻と幼い子供がいた。
妻も働いてはいたものの実入りは良くない。
自分が働かなければ金が足りなくなるのは分かっていた。
それなのに、手足の骨折で入院してしまった。
治療費まで必要になってしまった。
どのくらいになるのだろう、いつまで仕事を休まなければならないのだろう。
男はそればかり考えていた。
そこへ虹色の怪しげな光がやって来た。
男は恐怖にかられるが手足を吊っているため動けない。
そのまま光に包まれていった。
温泉に浸かっているかの様な温かさに、男の恐怖が和らいでいく。
光が消えると、手足の痛みが消えている事に気づいた。
その後、食事を運んで来た看護師にあったことを話すと男は検査され骨折が完治している事が確認された。
その日の内に退院が許され、男は大喜びで家に帰ったのだった。
(……また、目眩と吐き気が。
だけど今日は吐いてない!
前回よりまし!)
治癒を行った部屋の隣に、ブロッサムの為の休憩室が用意されていた。
使っていなかった部屋にちょっと良いベッドを置いただけだが、前回の様子を見て急遽運びこまれたらしい。
体調が少しマシになってくると、あの少女の事が気になった。
「アクア、あの子はどうなったか分かる?」
「来る途中で拾った女の子ですか?
聞いてまいりますね。」
「待って、わたくしも行きますわ。」
起き上がれるくらいには回復した。
少女の様子を見るぐらいなら大丈夫だろう。
だが、犬を連れて行っても良いものか?
相手は幼いとはいえ女性、カイは遠慮した方が良いか?
ブロッサムには正解が分からなかったので、ポチの世話をカイに任せる形で部屋で待ってもらう事にした。
看護師に許可を取って彼女が寝ている部屋に入ると、用意された食事をがっついていた。
「……えぇーとぉ……?」
「お腹が空いたと言うので、食べさせてみました。予定外の退院もありましたからね。」
澄ました顔で、看護師が言う。
「え、もしかして蹲っていた理由って空腹ですの?」
「睡眠不足もありそうですよ。」
「ひゃりまふぉー、ひゃふへへふへへ……」
おそらくお礼だろう、とブロッサムは思った。
口の中に食べ物をいっぱい詰めて喋っているせいで分かりづらいが。
「まずは食べて。話はそれから。」
すると少女は遠慮なく、もぐもぐし始めた。
最後のお茶で全てを流し込むと、彼女はふぅっと息をつく。
「ありがとう、助けてくれて。
家に帰りたいのに、動けなかったの。
それで、治療費なんだけど今これしか無くて……」
少女は小さな銅貨を差し出してきた。
「あ、わたくしはこの病院の者じゃなくて……」
そこまで言った所で病室のドアが開いた。
「ブロッサムはこっちかな。
お、君も元気になったみたいだね。」
医者が入って来た。
壁際から予備の椅子を持ってきてベッドの脇に座る。
「うん、顔色良くなった。
君の名前は?」
「ミレニアム。
ミリーでいいわ。」
「年は幾つ?」
「十歳。」
「今朝は朝御飯食べたのかな?」
「食べてない。昨日、おばあちゃんとケンカして抜きにされた。」
「……ケンカの内容は?」
「『そろそろ従姉妹のお下がりじゃない服が欲しい』って言ったの。
だって、わたしの方が痩せてるけど背は高いのよ。つんつるてんだもの。
……そしたら『贅沢言うな』って。
『じゃあ、ナタリーと叔母さんに家でご飯食べさせるのはやめよう』って言ったら、『父親がいない従姉妹にそんな事言うのは冷たい』って。
ご飯買えないのに服は買えるっての?おかしいでしょ。
でも、おばあちゃんは『お前は人の心は無いのかい』って……」
「……それで、今朝は食べなかったんだね。」
「学校行けば給食あるからいいかなって思ってたんだけど、今日って午前で終わりだったんだよね。
失敗したわ〜。」
あっけらかんとした口調と裏腹に内容は笑えない。
「なんでパパとママの仕送りでナタリーと叔母さんに食べさせなきゃいけないのかな?
納得いかないわ~。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます