第2話 ブロッサムの結婚事情

 屋敷の庭でブロッサムとフローラは特訓をしていた。

 ブロッサムが結界を張れないと、フローラが跡取りになってしまう。

 フローラにとってそれは都合が悪かった。

 ブロッサムとフローラには親が決めた婚約者がいる。

 今、脇で控えている聖騎士のカイ、彼が現在のブロッサムの婚約者。


 フローラは別の侯爵家へ嫁ぐ予定だ。

 フローラは現在婚約している令息と両思いなのだが、彼女が跡取りになった場合ブロッサムと婚約者を交換しなくてはいけないのだ。

 カイはあくまでこの家の跡取りの婚約者なのである。

 そして跡継ぎになれなかったブロッサムは妹と想い合う男性と結婚、となる。

 良い関係を築けるとは思えなかった。


「お姉様、イメージが大事ですのよ。こうですわ。」


 フローラが自身を囲む小さな結界を張って見せる。

 地面の上なのでドーム型に見えるが、実際は彼女を中心とした球状のはずだ。


 (自身を取り囲む球、イメージが大事……)


 フローラの真似をしてブロッサムも意識を集中してみる。


 リロン♪

 新スキルを獲得しました

 ステータスをご確認下さい


 (んん?何、今の音?)


 ブロッサムが今まで聞いたことのない音がした。

 

(待って、前世の夢でなら似たような音が……)


「お姉様!!結界ができてますわよ!!」


「ええ!?」


 ブロッサムをギリギリ包む小さな結界ができていた。

 

「ブロッサム様!!ステータスを確認させて下さい!!」


 ブロッサムがステータスの閲覧許可を出すとカイが鑑定スキルを発動した。


「……治癒結界、浄化結界の中に展開可能?」


「この結界、よく見ると色が違いますわ。」


 通常の結界は真っ白な光だが、ブロッサムの結界はシャボン玉みたいに虹色をしている。


「駄目ですね。それ以外の情報は見れません。」


「やっぱり全部が隠されているのですね。一部だけでも見れた事は進歩と言えるか……」


 カイの言葉にガッカリするブロッサム。

 何故かブロッサムのステータスは誰にも見られないのだ。全て『※』の羅列でどんな能力があるのか分からない。

 カイが婚約者に選ばれたのも、彼に鑑定スキルがあるのが理由の一つだ。


「教会の司祭様に見ていただいたほうがいいんじゃないかしら?」


 カイは年齢の割にスキルレベルが高いが、司祭にはカイよりレベルが高い者もいる。

 ブロッサムは、カイとアクアを伴って教会へと向かった。

 

「兄様には、ブロッサム様のステータスは見られなかったのですか。」


 カイとアクアは兄妹だ。

 ブロッサムの家と代々付き合いのある伯爵家の子供で、カイは身分の割に神聖力が高かったからブロッサムの婚約者になった。

アクアの神聖力は伯爵家としては普通だ、実家の判断でブロッサムの家との繋がりを強くするため侍女になった。

 二人の仲は良い。異母兄妹だが母親同士の仲が良かったせいだろう。

 二人共生涯ブロッサムを支えてくれる予定だ、今の所は。


「やぁ、ブロッサム。今日はどうしたんだい?」


 ブロッサムやカイ、アクアにとって近所の教会は幼い頃から通い慣れた場所で、司祭はもう一人の祖父のような人だ。

 若い頃は聖騎士だったが、性格が戦闘向きではなく早くに引退した人物だ。


「司祭様、まずはこれを見て下さい。」


 ブロッサムはさっきと同じ結界を展開させる。


「ほう、これはこれは……」


 司祭はブロッサムの周りをぐるりと回ってじっくりと結界を見た。


「ステータスを見せてくれるかな?……なるほど。」


 司祭でも結果は同じだった。


「浄化結界とは違うみたいだね、ステータスを見るに治癒結界だろう。

だが浄化結界の中に展開可能とはどういう……?」


「そこが分からないんです。」


「……そうか、分かったぞ!」


 司祭はポンと手を叩く。


「治癒結界とほぼ同じ大きさの浄化結界が重なっているのでは?」


「そんな事が……?」


「前列の無い事だが、それならば説明もつくだろう。

ブロッサムは浄化と治癒、二つの結界を同時に使えるようになったんだ。」


 本当はブロッサムが生まれた時から浄化結界展開しているのだが、それに気づく者は居ない。

 大聖女の結界ですらこの街を覆う程度の大きさしかないのだから、惑星の半分を覆う巨大結界など誰も想像できない。


「つまり、わたしは浄化結界が使えるようになったってことですか!?」


「「おめでとうございます、ブロッサム様!!」」


 カイとアクアが喜ぶが、司祭は落ち着いていた。


「これでスタートラインに立てたな。精進しなさい。」


 そう、この結界は三歳の時のフローラと同じくらいの大きさしか無い。

 フローラが大喜びで何度も皆に見せてくれたから四人共覚えている。

 アクアとカイの喜びは急速に萎んだが、ブロッサムは拳を握った。


「一度できてしまえば、こっちのものですわ。

バリバリ練習して、とっとと結界を大きくしましてよ!!」


「その意気です!ブロッサム様!」


「うむ、心がけは良いが、言葉使いは気をつけなさい。令嬢らしくな。」


 ブロッサムは早速家に帰り、家族に結界を披露した。


「まあ、虹色!綺麗ねぇ。」


「二重になっているのか?すごいじゃないか。

ブロッサムは祝福の光が強かったから、いつか才覚を現すと思っていたぞ。」


 父も母も大喜び、その様子を見ながらフローラはにこにこして言った。


「後はこれを大きくするだけね。」


 フローラには悪気はない。

 だがその言葉はブロッサムの胸にグッサリと刺さる。


(わかってる、フローラにとっては自分の結婚を左右する事だもの、早く解決したいわよね。)


 十四年共に暮らした妹を幸せにしたい、そのためには結界をフローラと同じくらいに大きくしなければ。

 だが、どうすれば?

 残り時間はあまり多くはない。

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