落ちこぼれ聖女の治癒修行!!一人前目指して頑張ります!!
むろむ
第1話 聖女転生
春の暖かい日のことだった。
ある貴族の屋敷で、その屋敷の主人の第一子が生まれた。
「おめでとうございます。可愛らしい女の子ですよ。」
「おお……!!」
産婆の言う通り母親によく似た顔立ちの愛らしい娘だった。
手も足も小さく頭には桃色の産毛がポヤポヤと生えている。
「でかした!でかしたぞ!我が家の跡取りだ。美人になりそうだ!!」
その小ささ、だが確かに生きている神々しさに父親となった主人が感動していると、赤子の体が朝日のように光輝いた。
やがてそれはキラキラとした光の粒となり赤子の周りを回ったかと思うと、周囲へ散らばり壁や天井を突き抜け外へ飛んでいった。
「これは……
聖女だ、聖女を授かったぞ!
うちは安泰だ!!」
震える声で言うと産婆も、立ち会った医師の資格を持つ聖女達も頭を下げた。
主人は聖騎士、妻は聖女。
娘ならば九割以上の確率で聖女になる事が分かっていたが、それでも主人は感動した。
「これほど眩しい祝福は初めてです。素晴らしい聖女になられることでしょう。」
「ああ。ローズと同じくらい、いやもっとすごい聖女になるかもしれん!」
「お嬢様のお名前はなんとしますか?」
産婆の問いに主人は少し考えて答えた。
「今、庭で満開になっている桃の花にちなんで、ブロッサムはどうだ。」
「良うございますな。花のように美しくなりましょう。」
「桃のように可愛い娘になるといいわね。」
妻も賛同し、微笑んだ。
屋敷から出た光の粒は増えながら広がり続ける。
密度を上げ赤子を中心とした巨大な球状の光の壁が形成され大きくなっていった。
同じ頃、王宮では大聖女の任命式が行われていた。
まだ十代半ばの金髪の少女が神官の前に進み出る。
彼女が新しい大聖女だ。
国王が見守る中、神官が大聖女の証『黄金の花冠』を授ける。
それは貴金属でできた大聖女を美しく飾るだけの冠だが、その光景は厳かで神秘的だった。
儀式が無事に済むと若き大聖女は居並ぶ聖女や聖騎士に向かって笑顔で手を振った。
「クラリス様!!」
「大聖女様万歳!!」
その時、眩い光の粒が壁をすり抜けて現れ、大広間を駆けた。
光は辺りを照らしながら反対の壁へと消えていった。
「今のは……??」
「女神の祝福だ!!新しい大聖女様を女神ミスト様が祝福なさったのだ!!」
誰かの言葉が伝播して会場は歓喜に包まれた。
この日、惑星ミストの半分、光半球と呼ばれる人間の世界を覆う結界が展開したが、それを正しく認識した人間はいなかった。
……それから十五年、赤子は美しい乙女へと成長した。
朝目覚めて、ブロッサムはまず髪の色を確認する。
この世界に生まれて物心がついてからの日課だ。
手に取った髪の束は目の覚めるような桃色。
これで今自分が『ブロッサム』だと理解するのだ。
それからベッドから出て鏡に向かう。
相変わらず豪華な部屋だ。
薔薇の香りも漂っている。
ブロッサムが好きな香りだから毎日寝る前に良い気分になれるように侍女が用意してくれる。
鏡の中から真っ直ぐこちらを見返してくる少女はアニメから抜け出したみたいな可愛らしさだ。
ドアがノックされたので入室許可を出す。
侍女のアクアが入ってきた。
「おはようございます、ブロッサム様。
今日も鏡とにらめっこですか?」
名前の通り水色の髪と目が涼しげな美少女だ。
私が男なら嫁にしたい、とブロッサムは思うが口には出さない。
「おはよう、アクア。
今日も黒髪じゃないみたい。」
「当たり前じゃないですか。
それに今の色の方がいいですよ。」
ブロッサムが毎晩見る前世の夢の話を、アクアとその兄は聞いてる。
幼い頃の彼女には『なんか不思議な夢』という認識しかなくて、軽い気持ちで二人に話したのだ。
「見た目は派手、中身は地味なオタク……」
「なんです?」
「あなたの髪色が綺麗で羨ましいわ。そんなだったら良かったのに。」
「まーた、そんな事言って。美人なんだから堂々となさって下さい。」
そう言いながらアクアはブロッサムの髪を梳き、薔薇の香りの油で整える。
前世ではどうだったかブロッサムは覚えていないが、この世界では令嬢の体に触れるような世話はメイドではなく侍女の役目だそう。
たぶん、前世の彼女はそこまで興味が無かったから調べていないのだろう。
仕上げに赤い薔薇の髪飾り、鏡台の上で存在を主張していたそれは髪に収まるとしっくりと馴染んで見えた。
「赤系ばかりでは目立ちませんね。白や緑も似合うと思うのですが。」
「パーティーの時はちゃんと着飾るから、今はこれで許して。」
ピンクの髪とルビー色の目だけでも派手なのだ。
日本人の記憶を持つブロッサムには、毎日コスプレしているみたいに思えて落ち着かない。
アクアが選んだ白に近い淡い色のドレスを着て今日も完成だ。
侯爵令嬢にして、聖女見習いのブロッサム。
それが今世の自分の姿。
身支度ができたら朝食だ。この家は家族揃って食べる決まりなので食堂に向かう。
食堂にはもう全員集まっていた。
厳格だが家族思いの父、ブロッサムと同じ色の髪をオールバックにしている。
どことなく前世で見た映画でエルフを演じていた俳優さんに似ている。
美しいが怒ると怖い母、ブロッサムより赤みの強い髪とピンクの目。
気品に満ちた淑女で、ブロッサムは心の中で先生や師匠と呼んでいる。
可愛い妹、容姿は母によく似ており大人しくも愛嬌のある自慢の次女。
聖女見習いとしても優秀。
(なんだこのありがちな面子、マンガか?ラノベか?
後は意地悪な同い年の女子とか出てくるのかな?)
と、ブロッサムは思う。
ブロッサムの前世は異世界物は嗜む程度に読んでいたが、転生したいほど好きではない。
フィクションだから、他人事だから楽しいんだと思っていた。
「おはようございます。お父様、お母様、フローラ。」
「おはよう。」
「おはよう、ブロッサム。」
「おはようございます。お姉様。」
ブロッサムが夢に見る前世の自分は普通の家の子供、今の自分と同じ年頃までしか思い出せないけど人生に積極的ではなさそうだ。
―あの時もっと頑張っておけば……
夢を見るたびにそんな気持ちが流れこんでくる。
まるで年をとってから思い出しているみたいに。
前世の記憶がある以上、前より良い人生を送りたいがブロッサムには問題があった。
「ブロッサム、結界の練習はどう?」
ブロッサムが席に着くなり母親が尋ねてくる。
「……残念ながらまだなんとも、でも諦めませんわ!!」
「頼みますよ。あなたはこの家の跡取りなんですからね。」
「フローラは三歳で、できるようになったのになあ。」
この世界の貴族は神聖力というものを持っていて、男性は武器に力を込めてモンスターと戦う聖騎士に、女性は浄化結界を張って街を守る聖女になるのが一般的。
だが、ブロッサムは十五歳になっても結界が張れないのだ。
貴族の跡取り娘としては致命的な欠点だった。
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