第2話 最初のダンジョン
オクタ王国出発から三日。俺たちは、ハイゼルさんからもらった魔王城までの地図 を頼りに進んでいた。道中には三つのダンジョンがあり、魔王城に近いダンジョンほどダンジョンに入るための必要レベルも高く設定されている。各ダンジョンの必要レベルもハイゼルさんから教えてもらっているから、とりあえず最初のダンジョンでレベル上げと装備の強化をしておきたい。ちなみにジョブはジャンケンの結果、ドランが戦士、ペペがヒーラーになった。
「そろそろコペルタウンが見えてくる頃だな」
「なあ、カイン。そのコペルタウンってどんなところなんだ?」
「ハイゼルさんから聞いた話だと、人間と魔族が共生してる小さな町らしい。」
「ん?カイン氏、魔族って現在進行形で人間界に攻めてきてるんじゃないの?」
「ああ、俺もそこが気になってハイゼルさんに同じことを聞いてみたんだけど、魔族の中にも人間との友好関係を継続したいって考えてる魔族が一定数いて、コペルみたいな町はいくつかあるんだって」
「へー、人間と魔族が一緒に暮らしてる町なんて初めてだから楽しみだな」
「そうだね。エルフとかケモ耳の魔族とかいるのかな?」
「どうだろうなあ。お、見えてきた。多分あれだ」
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無事にコペルタウンに到着した俺たちは、王国を出る時に持ってきた食料も底をつきそうになっていたので、アイテムショップで食料とダンジョン攻略用のアイテムを買うことにした。
「こんいちは。携帯用の食料と、あとポーションとかってありますか?」
「いらっしゃい!どっちも置いてるよ!」
元気よく答える店員さんはおそらくエルフなのだろう、若干耳がとがっていた。しかし、この容姿、非常にまずい。何がまずいかというと、誰かさんの性癖に刺さりすぎる・・。
「こ、こここkk・・・・これは・・モノホンの・・・黒ギャル⁉」
案の定ドランの様子がおかしくなっていた。そう、店員さんはエルフはエルフでもダークエルフなようで褐色の肌をしていた。おまけに綺麗な金髪でまさに黒ギャルの典型みたいな見た目をしていた。
「ん?黒ギャル?ナニソレ?」
「初めまして、私はドランと申します。世界を救うために仲間と旅をしています。もしよろしければあなたのお名前をお聞かせください。(キリッ)」
「なんかドラン氏、変なスイッチ入ってない?一人称変わってるし・・・」
「まあ、ああなっちゃったらしばらくダメだな。ブラケで黒ギャル系のレイヤーさん見かけた時と同じ感じになってる」
以前のブラケでもドランはこんな感じになり、そのレイヤーさんが優しい方だったのでOwatterのフォロバまでしてもらったのだが、帰り道でそのレイヤーさんが彼氏とラブホに入っていくのを見てしまって数日再起不能になっていた。その際にNTRだのBSSだのほざいていたが、普通に健全にお付き合いしてる感じだったし、お前のほうが後に好きになってるだろ。あんなことがあったのにあいつは全く懲りてないらしい。
「アタシ?アタシはナナだよっ♪よろしくねっ、ドラン♪」
ナナさんはギャル特有の陽のオーラの使い手らしく、陰の者である俺とペペはその眩しさに目がつぶれそうになっていた。ドランはというと、ナナさんのあまりのギャルっぷりに完全に目がハートになっていた。
「名前を・・呼んでくれた?黒ギャルが?・・・ナナさん・・・・LOVE」
メロメロになってるドランは一旦置いておいて、俺とペペはナナさんから食料とダンジョン用の回復ポーションやら状態異常回復アイテムやらを購入した。ドランはもう強引に連れて行こう。
「ドラン、そろそろ行くぞー」
「ちょっと待ってくれ、カイン。ナナさん、最後に連絡先だけ交換していただけませんか?あと彼氏っていますか?」
「連絡先?いいよ!彼氏はいないけど何で?」
彼氏の有無を確認するあたり一応ドランなりに学習はしてるようだ。その後、ドランは無事にナナさんの連絡先をゲットしニッコニコだった。
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コペルタウンを出てダンジョン前に移動した俺たちは町の人達に聞いて集めた情報を整理していた。
このダンジョンは第一層から十層まであり、十層にダンジョンボスがいる。ボスは不屈の騎士リスター。その名の通り、HPがゼロになっても復活するギミックがある。さすがに無限に復活するなんて無茶苦茶な仕様ではないと思うが、そのあたりは行ってみないとわからない。あと、第一層のモンスターが数日前に変わったらしいけど、まあ、大した影響はないだろう。
「よし!二人とも準備はいいか?」
「いつでも」
「行けるよ」
俺は少し深呼吸してダンジョンゲートへと歩を進めた。
初ダンジョン、攻略開始だっ!
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ダンジョン第一層、そこはだだっ広い円形の空間だった。もっといろんなオブジェクトがあったりすると思ってたんだけどなあ。その代わりにいるのは一匹のモンスター。だが、いくら第一層とはいえこいつでいいのか。俺たち冒険者的には超イージーでありがたいが、ダンジョン運営サイド的にはいいのか?
そいつは青く、小さく、プルプルしていて、どことなく可愛さも感じさせた。RPGプレイヤーであれば、このモンスターを知らないやつはまずいないだろう。そう、そのモンスターは・・・。
「スライム・・・だと?」
「どう見てもスライムだな」
「間違いなくスライムだね」
「まあ、サクッと終わらせて次の層行こうぜ」
そう言ってドランがスライムに剣を振りかざした次の瞬間、スライムから一本の腕のようなものが生え、その先端はハンマーに変形した。ドランは即座に全身を魔力で包み防御態勢をとった。ハンマーはドランを殴打した。しっかりと防御態勢をとっているし、たかがスライム、大した威力ではないだろうと思っていた。しかし、その予想は外れ、ドランは数メートル吹き飛ばされた。
戦士というジョブはもちろん近接系であり、他のジョブに比べて高い防御力を有している。そのドランでこれだとすると、ペペが喰らえば壁まで飛ぶかもしれない。もし俺が喰らうようなことがあれば、ワンパンの可能性もある。俺は今まで数多くのRPGをプレイしてきたが、物語の最序盤ならまだしも、こんなそこそこレベルが上がった段階でスライムにボコられるなんて聞いたことがない。
「ドラン、大丈夫か?」
「ああ。でも、あのスライム普通じゃないぞ。もし仮にレベルがめちゃくちゃ高いんだとしても、あの威力は有り得ない」
「カイン氏、あれ、本当にスライム?なんかスライムによく似た新種のモンスターなんじゃ・・・」
(新種のモンスター?いや、あれはどう見てもスライ・・・)
「いかにも。我はスライムであってスライムではない」
「ん?」
なんだ今の声。俺たち以外には誰もいないはず。まさか、透明化の魔法でも使ってんのか⁉
「我はレジェンドスライム。S級冒険者との死闘の末に覚醒した突然変異のようなものだ」
その声は、多分、多分だけど、目の前のスライムから出ていた・・・・。俺たちは思わず声を揃えて叫んだ。
「スライムが喋ったーーーーーー⁉」
「何を驚くことがある。今時、喋るスライムなど普通であろう」
「え、そうなの?」
俺は二人に問いかける。
「いや喋るスライムなんて聞いたことねえぞ」
「僕も、ドラゴンみたいな上位種がまれに喋れたりするとかなら聞いたことあるけど、スライムが喋るのは初耳だよ」
「てかこいつさっき、S級冒険者と戦ったとか言ってなかったか?スライムなんて D級冒険者でも倒せるんだぞ。それなのにS級相手に生き残るなんて・・・」
ドランが訝しげに言う。
「そうだな。我もなぜ生き残れたかは今でも不思議だ。。奇跡が起こったとしか思えん。」
「レジェンドスライム誕生の経緯は一旦おいておこうよ。こいつを倒さないと二層には進めないよ。どうするカイン氏」
「んー、そうだなあ。まともにやりあっても勝てる気は正直しない。なんか弱点であれば・・・」
「来ないならこちらから行くぞ冒険者。貴様ら相手にはやりすぎかもしれんが、手を抜くのもそれはそれで礼を欠く。ここからは本気で行くぞ」
「・・・本気?」
さっきより上があるってのかよ・・・!
「魔力解放」
レジェンドスライムがそう言った直後、レジェンドスライムからとてつもない量の魔力があふれ出した。冒険者になる前に通っていた学園の先生でもここまでの魔力を持っているものはいなかった。とんでもないプレッシャーだ。こんなの勝てっこない。もう終わるのか・・・?まだ始まったばかりなのに・・・
「ううっ・・僕、まだ死にたくないよぉ・・。『まどマジ』の映画だってまだ見てないのに・・・」
ペペがそう弱音は吐くと、突然魔力の奔流が途絶えた。
「む?貴様、今何と言った?」
「え?まだ死にたくないって・・・。」
「違う。その後だ。」
「『まどマジ』の映画もまだ見てない?」
「貴様、『まどマジ』を知っているのか?」
「一応、シーズン2まで全部みてるけど・・・」
『まどマジ』ってのは、アニメ『魔法少女まどかマジカ』の略称で、このアニメは魔法少女の可愛さにダークな設定を組み合わせたことで社会現象にまでなった傑作であり、冬に新作の映画が上映される予定だ。
「ほお。なかなかいい趣味をしているではないか。我もダンジョンが休みの日に少しずつ見ているところだ。しかしぽぷら殿は、なぜしきりにまどか殿に魔法少女を辞めるように言うのだろうな。我はまどか殿の誰かを助けたいという気持ちを尊重してほしいのだが・・・。まあ、それもこの先どこかでわかるのだろうな」
(へー。ダンジョンに休みとかあるんだな。ってかスライムもアニメ見たりするの?)
「カイン、なんかいい案思いついたか?もう殴り合いじゃ勝てないんなら、精神攻撃と言いたいところだけど。お前、洗脳魔法とか使えないのか?」
「そんなん使えねえよ・・・。んーー、ん?精神攻撃?」
さっきの話を聞く限り、あいつは『まどマジ』を全部は見てない。まだかなり序盤のはずだ。そして、精神攻撃。ぶっちゃけこれは賭けだ。メンタルブレイクするか、ブチ切れるか。前者なら勝てるかもしれない、だが後者ならここで俺たちは全滅だ。ここはいっちょやるしかねえ!
「なあスライム。お前さっき、ぽぷらがまどかに魔法少女を辞めるように言う理由について不思議がってたな?」
「カイン、お前まさか・・・⁉」
これはオタク的には絶対にやってはいけないこと。だが、世界の命運がかかってるときに手段なんて選んでられないだろ?
「いかにも。それがどうかしたか?」
「俺はその答えを知っている」
「ほお。申してみよ。」
「いいだろう。まず、ぽぷらはタイムトラベラーだ。いくつもの世界線を渡り歩いている。」
「ぽぷら殿はなぜそんなことをする?」
「まどかを救うためだ。」
「まどか殿を救う?」
「そうだ。実はまどかには特別な力がある。それは世界から魔女を消し去る力だ。」
「なんと!そんな力を持っておられたのか!
「だがそんな力、何の代償もなしに行使できるはずはない。その力を使う代償、それはまどかの命だ。」
「そんな、バカな!まさか、まどか殿はその力を使うのか?」
「ああ。まどかはずっと何もない自分が嫌いだった。誇れるものが何もない、そんな自分が情けなかった・・・。だが、そんな時に多くの人を救う力を手に入れた。まどかはやっと何者かになれたことが嬉しかった。」
「ぽぷら殿はその力の行使させないためにタイムトラベルを重ねていたのか。」
「そう。だが、実は問題はまだ残っている。オブザーバーはまどかにわざと伝えていないことがあった。それはまどかがこの力を行使した場合、世界から魔女を消し去り魔法少女を普通の少女に戻す代わりに、まどかは歴史上最凶最悪の魔女になり世界が滅ぶということだ。」
「貴様、一体何を言っている!まどか殿は命をかけて魔法少女たちをその運命から解き放とうというのに、そのまどか殿が世界を滅ぼすことになるなど・・・あまりにも・・・・あまりにも・・・・」
「救いがない・・・か?そうだな。このままなら確かにそうだ。だから力を使った後その真実を知ったまどかはある選択をする」
「ある選択?」
「そうだ。まどかは世界の理の一部となる。この世界を廻す部品とでも言ったらいいか。それによりまどかは全ての魔法少女をその運命からの解放に成功し、また自身の魔女化も防いだ。」
「結局、まどか殿は報われたのか?」
「どうだろうな。結局まどかという人間はそもそもこの世界に存在しなかったということにんるが、まどかはそれで救える人がいるなら構わないような感じだったが・・・」
「この世に存在しなかった・・・だと・・・・。まどか殿のような若人が自らその存在をなかったものだと、その存在を人生を否定したと言うのか⁉そんな惨いが・・・あってよいのか・・・・くっ・・・うぁぁっ」
スライムは泣いた。自分以外の誰かのために、命以上のものをかけた少女の尊さにただ慟哭した。
「・・・悪いな。・・・・・プロミネンス」
魔法による爆炎がその涙を包み込んだ。
「スライムーーーーーーーーーーーーっ!!」
「レジェスラ氏ーーーーーーーーーーっ!1」
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なんとか第一層をクリアした後は、レジェンドスライム戦でかなりレベルが上がったこともあり九層までイージーだった。
「おい、カイン。もし世界の命運がかかってなかったら、俺は今お前をぶっ殺してるぞ」
「そうだよ。まだ完璧なネタバレならまだしもちょこちょこ本編と違ったし」
レジェンドスライムを倒した後、ドランとペペは完全にメンタルブレイクしてしまい、回復するまで三時間ぐらいかかった。
「いや俺も悪いことしたとは思うけどさー、仕方ないだろ。とにかく、あいつの死を無駄にしないためにもちゃっちゃとボス戦終わらせるぞ」
「俺たちは絶対お前のこと忘れないからな」
「僕も『まどマジ』オタとして、もうレジェスラ氏はもう一人の仲間みたいなものだよ」
第十層にて、ボスの間へと続くゲート前で俺たちは作戦会議をしていた。
「いよいよボス戦だけど二人ともギミックは覚えてるか?」
一応二人に確認しておこう。
「ああ。ライフがゼロになっても復活する、だよな」
「ただ復活回数の制限または復活する条件があるはずだから、ドラン氏がボスの相手をしてる間に、僕とカイン氏でそれを探せばいいんだよね」
「そうだ。ドランが結構キツイと思うけど、そこはちゃんとサポートするからなんとか時間を稼いでほしい」
「了解。任せとけ」!
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第十層ボスの間、そこには一人の騎士が佇んでいる。
「また、ダメなのか・・・」
同人誌即売会に行くために魔王討伐に行きます @asahi1006
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