同人誌即売会に行くために魔王討伐に行きます

@asahi1006

第1話 同人誌書いてたら魔王討伐に行くことになりました

 「ついに、ついに完成したぞ!」

 俺は、冬に大都市トーキョで開催されるブラックマーケット110で頒布する同人誌がようやく完成し、達成感で満たされていた。


 今回作ったのはジャンル的には、お姫様と勇者の純愛の話だ。まあ、そんあに珍しいストーリーではないのだが、一つ攻めている部分があり、それはこのお姫様が自国に実在する方であるという点だ。


 「お、本出来たん?カイン」

そう言って声をかけてきたのは俺の幼馴染のドラン。同人仲間でもありルームシェアしている。

 「うん、何とか間に合ったよ。ドランはもう出来たの?」

 「うーん、一応ー。ふぁぁ・・・眠っ」

 「今回も黒ギャル本?」

 「そー」

 俺は清楚系のザ・ヒロインって感じの女の子が好きなのだが、対してこいつの趣味は黒ギャルだ。黒ギャルなんて絶対ヤリマンに決まってる。正直、なにがいいのか全く分からないが、ドラン的にはそれがエロくて最高らしい、、。


 「そういやカイン、もう聞いたか?あの噂。」

 ドランが思い出したように言う。最近の噂というと一つしかないので答えてみる。

 「あれだろ。王様が魔王討伐隊を作ろうとしてるってやつだろ?」


 百年前に人間界と魔界の間で交わされた停戦協定。これにより人間と魔族は共存関係を構築し、今後もこの平和な日常が続くものと思われていた。しかし、先代の魔王が病に倒れ、新しい魔王が誕生した。どうやらその魔王は、人間は魔族よりも下等な生物であるという思想強めな奴だったようで再び戦争が始まってしまったというわけ。


 「そそ。でさー、多分王様直属の精鋭部隊とかが行くのかと思ってたら、どうも違うらしいんだよ。王様直属部隊とか高ランクの冒険者は各国の護衛に充てるらしくて、だから魔王討伐隊はB級、C級くらいから選ばれる可能性が高いとか」


この世界の5割程度の人間は何かしらの特殊な能力を有しており、そういった者は大抵冒険者ギルドに所属して様々なクエストをこなし収入を得ている。冒険者になるとライセンスが発行され、最初はD級から始まる。そこからC,、B、A、Sと上がっていく。まあ、S級なんてまだ5人しかいないけど。ちなみに俺とドランはC級だ。


 「えっ⁉じゃあ、俺らが生かされる可能性もあんの?てか魔王城なんて高レベルの魔物ばっかりだろ。C級なんか行かせても死ぬだけだと思うけど」

 「ああ、それね。魔王城までの道のりにいろいろとダンジョンがあるから、魔王城に着く頃にはそれなりにレベルも上がってるだろうから大丈夫って考えらしい」

 「なるほどなー。まあ、それなら行けなくもないか。でも、自分が行けって言われたら絶対嫌だな」

 「俺も―」


 その日はお互いに徹夜続きだったということもあり、深夜アニメはしっかりリアタイした後に眠りについた。

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 翌日、俺は所属ギルド『エターナル・プライド』に来ていた。このギルド名の由来は、自分の誇りを大事に生きてほしいという創設者の想いかららしい。


 「おはよう、カイン君。新しいクエスト探してるの?」

 この人は受付嬢のセレナさんだ。このギルドのクエストは、全てセレナさんが

探してきてくれたものだ。 

 「おはようございます、セレナさん。なんかアイテム納品みたいな軽めのクエストとかないですかね?」

 「あれ、さっきまで一つあったんだけど、ちょうど誰か受けちゃったかな?」

 「あー、まあ全然大丈夫ですよセレナさん。またいい感じのあったら教えてください!」

 「了解!ごめんね、カイン君」


 「とはいったものの魔物討伐はめんどくさいんだよなー・・・。仕方ない、久しぶりにやるかー」

 クエスト掲示板前に戻って、できるだけ楽な魔物討伐クエストを探していると、どこからか声が聞こえた。

 「カイン氏ー、もしかしてこれをお探しかなー?」

 「このオタクの見本みたいな声はもしや・・」

 「そう我はツンデレを愛しツンデレに愛された男っ!その名もペペロッチ!」

 俺は隣のツンデレ愛好家をガン無視して、その手からクエスト依頼書をひったくる。

 「ふーん。これで報酬3000ゴールドか。悪くないな」

 「残念でしたー。それはもう僕が受注したからカイン氏は受けられませ―ん」


 このキモオタはオタク仲間のペペロッチ、略してペペ。俺とドランみたいに作る方ではなく読む専門だ。好きなものはもちろんツンデレ。ツンデレなんてめんどくさいだけだと思うのだが、ペペ的にはツンデレのツンは多ければ多いほどいいらしい。全く理解できん。


 「まあ、いいけど。さて、どれにすっかなー」

 「ところでカイン氏ー、本の印刷ってもう終わった?なんか今年は印刷所の受付早めに終わるらしくて、今日が締切って聞いたよ」


 「えっ・・・・・・・・今日マ?」

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「間に合えーーーーーーーーいっ!!」

 本来なら家からデータを転送するだけで申込完了なのだが、締切直前ということもありサイトに全くつながらず、問い合わせたところ印刷所に直接データを持ってきてほしいとのことだった。

 「うおっ⁉すみません!」

 やべえ!急ぎすぎて人にぶつかっちまった!幸い、相手が体格のいい男性でけがはしていないようだが申し訳ないことをした。

 「いえ、こちらは大丈夫です。そちらは?」

 「自分も全然大丈夫です!すみません、ちょっと急ぎの用で!本当にすみません!」

 俺はぶつかった表紙に1冊自分用に作った薄い本を落としていることに気づかず、その場を後にした。


 「ん?これは・・・」

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 翌日、なんとか滑り込みセーフで印刷の申込を終わらせた俺は、ドランとペペと一緒にレストランで昼メシを食っていた。

 「いやー、僕が言わなかったら今頃どうなってたことやら・・・」

 「いやマジでナイスすぎる」

 「じゃあ謝礼としてここはカイン氏のおごりってことで!」

 「カインさん、ゴチになります!」

 「は⁉ふざけんな!ペペはまだしもドランは自分で払えっ!」


 「ち、ちくしょう・・・」

 いろいろと揉めたが最後はジャン負けが全額支払うということになり、見事に一発で負けた俺が予定通り?おごることになった・・・。

 「ま、運命は始めから決まってたってことよ」

 「いやー、人の金で食うメシは最高ですなー」

 「くっ・・・次は絶対負けねえ・・・」

 「そういやカイン、昨日なくしたって言ってた本見つかったか?」

 「いや、まだだな。多分昨日、人とぶつかった時にカバンから落ちたんだろうな。まあ、別にデータはあるし、多めに印刷申し込んであるから、最悪そこから一部もらうよ」

 「でも内容が内容だからなー、城で働いてる人なんかが拾ってたらマジで終わりだよな!」 

 「もし本当にそうなったら不敬罪で殺されるかもしれん・・」

 「子供が拾ってたりしてもやばいけどねー」

 「起きたことはもうどうにもならん!もう忘れよう!」 


 次の瞬間、突然道路の奥から馬車が走ってきて俺たちの目前で止まった。降りてきたのは長い金髪の男性だった。 何この超絶イケメン⁉

 「失礼、カイン君というのは君かな?

 「そ、そうですけど・・・」

 「私はオクタ王国騎士団長のハイゼルだ。すまないがこれについて少し話を聞かせてもらいたい」 

 金髪イケメン様はそう言うとおもむろに1冊の薄い本を差し出した。


 「あっ・・・オワタ」

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 というわけで、俺たち三人はオクタ城に来ていた。


 あのままだと俺一人が連れていかれて一人さみしく処刑されることになりかねないので、本はドランたちと一緒に作ったということにして二人にもついてきてもらった。俺たち親友だもんな!死ぬときは一緒だ!悪魔だとか、ゴミだとか言われてたような気がしないでもないが気のせいだろう。


 「君たちが作ったこの本なのだが、国王は大変お怒りだ。最悪、不敬罪で処刑ということにもなりかねない。」

 「や、やっぱり・・・」

 「くっ、カイン・・末代まで呪ってやるからな・・・」

 「カイン氏、許すまじ」

 「なんだよ二人とも、これは俺たち三人で作った本じゃないか。それじゃまるで、俺一人でこの本を作って、二人は巻き込まれただけみたいじゃないか」

 「まさにそうだろうがっ!!」

 「ハイゼル氏、この本ですが、実はカイン氏が一人で作ったもので、僕とドラン氏は関係ないんです!」

 「ん、そうなのかい?でも君たち友人だろう?カイン君がこういう題材で本を作ろうとしていること、知っていたんじゃないのかな?」

 「む・・・」

 「それは・・・」

 「止められる立場に居ながら、止めなかったということで連帯責任だと思うけれど?」

 ドランとペペもハイゼルさんに優しく詰められて渋々納得したようだった。だが、冬ブラケがあるんだ!俺たちはこんな所で死ぬわけにはいかねえ!

 「あの、ハイゼルさん、処刑ってことは俺たちはもう死ぬしかないんですか?」


 「ああ、それなんだが、一つだけ処刑を免れる条件がある。聞くかい?」

 「聞きます!ってかやります!ブラケに行けるなら何でもやります!」

 「俺も!」

 「僕も!」


 「そうか、それはありがたいな。じゃあ君たちにお願いしよう」

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 なんやかんやあったその日の夜、ハイゼルはオクタ城の自室で衰弱した国王の傍にいた。

 「国王様ももう若くない。そう長くは持たないのかもしれないな」

月の光に照らされながらハイゼルは、ひとり呟いた。 

 「カイン君、ドラン君、ペペロッチ君、勝手で申し訳ないけれどこの世界の未来は君たちにかかっている。どうか、生きて帰ってきてくれ」


 実はあの本を国王は見ておらず、不敬罪で処刑というのもハイゼルがついた真っ赤な噓ということはまだ秘密だ。

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 「いやー、まさかこんあことになるとは・・・

 「クソッ、あの時もっとちゃんと止めていればっ!」

 「はあ、魔物に食いちぎられて死ぬくらいなら、まだ処刑のほうが良かったな・・・」


 「でも、まずはジョブチェンジからだよな。さすがに魔法使い三人は構成終わってる」

 「戦士一、ヒーラー一いればとりあえずいい感じか?」

 「一人はジョブチェンジなしってことになるけど、誰にするの?」

 「そうだな。現状、魔法攻撃力が一番高い奴が継続して魔法使いってことにしようか」

 「僕は153」

 「俺は168。カインいくつ?」

 「300」

 「高っ⁉」 

 「カイン氏、確かレベル僕たちと同じくらいだよね。何でそんな高いの?」

 「フッフッフッ、聞きたいか?聞きたいだろう教えてやる。俺の魔法攻撃力が高い理由、それはレベルアップ時のステ振りを魔法攻撃力にしか振っていないからだ!!」

 「お前、本当に馬鹿だな」

 「カイン氏、それはさすがに脳筋すぎでは?」


 そんなわけで、俺たち三人は魔王討伐に向かいます。


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