告白の後で 一
姫宮と恋人の関係になった後、僕達はしばらくウッドデッキにあるベンチに座りながら、景色を眺めていた。
ベンチから見える夕陽とそれに照らされる姫宮はとても綺麗だったが、それは同時にもう少しで夜が訪れるという事でもあった。
もう少しこうしていたいという気持ちはあったが、あまりにも遅くなると姫宮の両親を心配させてしまうだろう。
そうなる事は避けたいと思った僕は、後ろ髪を引かれる思いになりながらも、「そろそろ行こうか」と、姫宮に告げた。
僕の言葉に姫宮はチラッと自分のスマートフォンの画面を確認すると、「……もう少しここに居たいけど、もう行かなくちゃだね」と寂しそうに呟いた。
そんな姫宮を見て、少しでも元気になって貰いたいと思った僕は握った手に力を込めると、「また、ここにこよう」と、微笑みながら言った。
僕の言葉に姫宮は嬉しそうな表情を浮かべると、「うん、瀬戸君、ありがとう!」と、明るい口調で言った。
そして、僕と姫宮は立ち上がると、再び来た道を引き返し始めた。
しばらく進んだ時、姫宮が、「さっき、告白をしてくれた時の話なんだけどね」と、ポツリと呟いた。
僕はどうしたのだろう、と不思議に思いながらも、「うん」と、相槌を打った。
「瀬戸君は私のお陰でみたいな事を沢山言ってくれたけど、それは私も同じ気持ちだよ」
姫宮はそう言うと、僕に微笑んだ。
「瀬戸君のお陰で、『キミユメ』について沢山話をする事が出来たし、自分の趣味を恥ずかしがる必要は無いんだって事を改めて知る事が出来たんだよ?」
姫宮の言葉に嬉しい気持ちで満たされた様に感じた僕は、「という事はお互い様っていう事だね」と言って、微笑んだ。
「うん、だから、今後ともよろしくお願いします」
姫宮はそう言いながら、ペコリと頭を下げると笑みを浮かべた。
僕は姫宮のその仕草を可愛らしく感じながら、「こちらこそよろしくお願いします」と言うと、姫宮の真似をして、ペコリと頭を下げた。
そして、顔を上げて姫宮と視線が合うと二人で笑い合った。
僕はそんな風に幸せな気持ちになりながら姫宮を家まで送り届けたのだった。
「ただいま」
そして、姫宮を送り届けてから僕が家に帰ると、母が、「お帰り。珍しく遅かったわね」と言って、顔を見せた。
母の言葉に僕は適当に誤魔化そうと思い、口を開こうとした。
しかし、母が僕の顔を見た途端、僕が口を開くよりも先に、「あら、おめでとう」と言って、驚いた表情を浮かべた。
母からの突然の祝福に意味が分からず、僕は首を傾げる。
すると、そんな僕の様子を見た母が、「彼女が出来たんでしょ?」と、短く言った。
母のその一言に、最初は僕の聞き間違いだと思った。
しかし、もう一度思い返しても、どうやら母は、『彼女が出来たんでしょ?』と言っていたな、と思った僕は、「……どうしたの、突然」と、取り敢えずそう言って母の質問から逃れようとした。
僕の言葉に今度は母が首を傾げると、「なんだか渚の顔を見た途端にそう思ったのよね」と、不思議そうに言うと、「それで、実際の所はどうなの?」と、再度尋ねてきた。
僕はなんでそんな所で勘が鋭くなるのだ、と思いながら、「いや、まあ」と言葉を濁すと、その様子を見た母は、僕がその質問を肯定したと判断したのか納得した様に頷くと、「母親の勘も捨てた物ではないわね」と、満足そうな表情でそう言って、自室に戻って行った。
僕はその後ろ姿を見送りながら、僕の顔を見ただけで彼女が出来たと言い当てた母の勘を恐ろしいと思い、今後は隠し事は出来ないな、と思うのだった。
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